○○円売りたいっ!
というのも、もちろんよいですが。「いくら売りたい」よりも、まずは「いくら売らなければいけない」を考えましょう、というお話をします。
「いくら売りたい」も良いけれど
あたらしく事業をはじめるとき、あたらしい年(期)がはじまるときなど。「売上」の目標を考えることがあるでしょう。
このとき。「いくら売りたい」よりも、まずは「いくら売らなければいけない」を知ることが大切です。
来年は○○円売りたいぞっ! という気概も良いですが。この「いくら売りたい」という発想には、次のような問題が潜んでいます↓
- 「○○円売りたい」という発想の出どころは、「○○円は売れるだろう」という「予測」であること
- 売上の正確な「予測」は、プロのコンサルタントやマーケッターなどでも困難。よって、安易な予測はまったくアテにならない数字であること
というわけで。「いくら売りたい」という予測とはウラハラに、まったくもって見当違いの現実となることも少なくはないのです。
ハズレる「予測」とハズレない「コスト」
「○○円は売れるだろう、だから、○○円売りたい」という売上予測が見当ハズレであった場合に困るのは、会社や事業が立ち行かなくなることです。
ゆえに、売上の目標は「予測」をもとにしないことです。不確かな予測をもとにするのではなく、確かなモノをもとにしましょう。
その確かなモノとは、「必要なコスト」です。
その事業や仕事をするうえで必要になるコスト(=費用)をもとに、売上の目標を立てるのです。
「予測」は、その結果が「お客さんまかせ」の要素が大きく、こちらがコントロールすることは難しい。ゆえに、見当ハズレが起こりやすい。
お客さんを増やしたい、と考えてもそうカンタンにはいきませんよね。
いっぽう。「コスト」は「自分しだい」の要素が大きく、こちらでコントロールしやすいもの。ゆえに、見当ハズレは起こりにくい。
コストを抑えようと思えば、自分(会社)しだいでできますよね。逆に、コストを増やしてしまうことも自分のせいであることがほとんどです。
ですから、売上目標を立てるのであれば。まずは、確かな「コスト」をもとにする、というのが正解になります。
「いくら売らなければいけない」を計算してみよう
売上目標は「コスト」をもとにして、「いくら売らなければいけない」を具体的に計算してみましょう。
《計算①》固定費 ÷(1− 変動費率)
いきなりの「変動費率」「固定費」に面食らってしまったかもしれませんが大丈夫。それほど難しい話ではありません。
はじめに、変動費と固定費について。これらはいずれも、コスト(=費用)の「種類」を2つに区分したときの名称です。
変動費は、売上が増えるといっしょに増えるコスト、売上が減るといっしょに減るコストです。たとえば、モノを売る仕事だと、商品の仕入や製品の原材料仕入など。
サービスを売るような仕事、たとえばコンサルタントだと、客先に行くときの交通費などが考えられます。
固定費はというと、売上が増えようが増えまいが変わらないコストです。たとえば、給料とか家賃とか。
ただ、コストは変動費か固定費かの2択ですから。コストの中から変動費を抜き出してみて、残りは固定費という消去法的な考え方でOKです。
変動費の対象になるコストがわかったらもうひとつ。「変動費率」を求めます。
変動費率とは、「変動費 ÷ 売上」です。仮に、商品売上 10,000円に対して、5,000円の仕入(変動費)が必要ならば、変動費率は「5,000 ÷ 10,000= 0.5」です。
それでは、例題で確認をしてみましょう↓
- 年間固定費 … 10,000
- 変動費率 … 0.25
《答》
- いくら売らなければいけない=固定費 ÷(1− 変動費率)
- いくら売らなければいけない=10,000 ÷(1− 0.25)≒ 13,333
上記のとおり、売上が13,333が「売らなければいけない」金額になります。「検算」をすると、こうなります↓
- 売上 − コスト= 売上 − 変動費 − 固定費
= 売上 −(売上 × 変動費率)− 固定費 - = 13,333 −( 13,333 × 0.25 )− 10,000 ≒ 0
売上 13,333から、コストをマイナスしたらちょうどゼロ。ゆえに、13,333がこの会社が「売らなければいけない」金額です。
この「利益がちょうどゼロ」になるポイントを「損益分岐点」と呼びます。また、損益分岐点での売上高を、「損益分岐点売上高」と呼びます。
個人事業者である場合には、固定費として「生活費」を入れて計算しましょう。個人事業者本人に「給料」という考え方がないので、その代わりです。
生活費とは、食費、住居費、被服費、趣味・娯楽費などなど。家計簿をつけているとすぐにわかるのですが…
《計算②》(固定費 + 借入金返済額 − 減価償却費) ÷(1− 変動費率)
実は、「分岐点」にはもうひとつの考え方があります。
さきほどの《計算①》が「利益がちょうどゼロ」であったのに対して、今度の《計算②》は「おカネの動きがちょうどゼロ」という分岐点です。
「いくら売らなければいけない」を考えるときに、「利益が出る《計算①》」ことも大事ですが、「おカネが減らない《計算②》」ことも大事です。
いくら利益があったとしても、手元のおカネが減っていくようであれば会社は潰れてしまいますから。いわゆる「黒字倒産」がその例です。ですから《計算②》も大事なのです。
《計算①》と《計算②》2者のちがいは「借入金返済額」と「減価償却費」。これについて、少し説明を加えましょう。
「借入金返済額」は、変動費でも固定費でもありません。コスト(=費用)ではないのです。借りたおカネを返しているだけですからね。借りたときに収入にもせず、返したときにも費用にしません。
ところが。おカネとしては出ていくものですから、固定費に足しています。
「減価償却費」は、固定費に含まれているはずですが、おカネとしてはでていくものではありません(詳しくはこちらの記事を→カンタンに知りたい・説明したい人のための減価償却の考え方)。
よって、減価償却費を固定費から引いています。ちょっと難しいハナシになりましたが、これも例題で確認をしてみましょう↓
- 年間固定費 … 10,000
- 変動費率 … 0.25
- 借入金返済額(年間) … 1,000
- 減価償却費(年間)… 300
《答》
- いくら売らなければいけない =( 固定費 + 借入金返済額 − 減価償却費 )÷(1− 変動費率)
- いくら売らなければいけない=( 10,000 + 1,000 − 300 )÷(1− 0.25)≒ 14,266
上記のとおり、売上が14,266が、おカネを減らさないために「売らなければいけない」金額になります。「検算」をすると、こうなります↓
- 売上 −(コスト− 減価償却費)− 借入金返済額
= 売上 − 変動費 − 固定費 + 減価償却費 − 借入金返済額
= 売上 −(売上 × 変動費率)− 固定費 + 減価償却費 − 借入金返済額 - = 14,266 −( 14,266 × 0.25 )− 10,000 + 300 − 1,000 ≒ 0
売上 14,266から、コスト(減価償却費を除く)と借入金返済額をマイナスしたらちょうどゼロ。ゆえに、14,266がこの会社がおカネを減らさないために「売らなければいけない」金額です。
現実には、「税金の支払い」も考えなければいけません。おカネが出ていくものは、コスト(減価償却費を除く)に加えて、借入金返済額、そして税金です。
本文中では、これ以上、話が複雑化するのを避けるため、税金については考慮外としましたのでご注意を!
結論、「いくら売らなければいけない +α」で考える
ここまで、「いくら売らなければいけない」という金額の計算を見てきました。
売上目標を考える際には、まずここからです。不確かな売上予測よりも、確かなコストをもとにして、「いくら売らなければいけない」かを計算しましょう。
利益でみるのであれば《計算①》、おカネでみるのであれば《計算②》という使い分けです。
このとき、とても重要なことがひとつあります。それは、計算された売上の金額が「現実的であるかどうか」です。
言い換えると、「こんな売上、とてもムリ」というような金額ではないかということです。
もしも、ムリがある金額だというならば。やるべきことは次の2つです↓
- 固定費の中からなにか削減できないかを検討する
- 変動費率を下げることができないかを検討する
固定費であれば、家賃の安いオフィスに移る、ムダな年会費を払っていないかを見直すなど。変動費であれば、仕入値を交渉するなど。
2つの計算式で確かめてみればわかりますが、固定費が減る、あるいは変動費率が下がると、「いくら売らなければいけない」かの金額は下がります。
ですから、固定費の削減と変動費率を下げる検討を繰り返しながら、「これなら達成できそうだ」という売上金額を《計算①》《計算②》で探します。
そうして求められるのが、「いくら売らなければいけない」の金額です。
そのうえで、黒字を出すため、おカネを増やすために、努力目標として「+α」の金額を加える。現実的で役に立つ売上目標のできあがりです。
まとめ
『いくら売りたい』よりも『いくら売らなければいけない』を考えよう、ということについてお話をしてきました。
売上目標を「○○円は売れるはず」と、「予測」からアプローチすることがありますが。予測の難易度が高く、きわめて難しいアプローチです。
それよりも、自分・自社で確定できるコストをベースにして、「いくら売らなければいけないか」から売上目標を定めましょう。
このとき前提にしたコストの金額を守る(不用意に増加させない)、という意識も大切です。コストが増えれば、必要な売上高は増えてしまいます。
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きょうの執筆後記
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