” 税務署が来るかも… ” ”銀行から融資が受けれないかも… ”
ならば、「特前所得」はだいじょうぶですか? というわけで、税務署と銀行が気にしている「特前所得」についてのお話です。
個人事業者・フリーランスは「特前所得ってナニ?」なんて言わないで
個人事業者・フリーランスが抱える不安や心配として、次のようなものが挙げられます。
- 税務署が来るかも(税務調査)
- 銀行からおカネを借りられないかも
税務署がやって来るというのは気が重いものですし、銀行からおカネを借りられないのは困ります。
ところで。税務署が来たり、銀行から融資を受けられない理由というのはさまざまありますが。
理由のひとつとして、「特前所得(とくぜんしょとく)」を挙げることができます。
税務署や銀行から見て、この「特前所得」に問題がある・疑問があるようだと。前述の不安や心配が現実のものとなる可能性が高まるのです。
したがって、個人事業者・フリーランスは、「特前所得ってナニ?」などという無関心ではいけません。
とはいえ、ご安心を。特前所得の言葉から受けるイメージほど難解なものでもなく。それほど込み入ったハナシではありませんから。
ひとまず、「特前所得とはなんぞや」から見ていくことにしましょう。
そもそも「特前所得」とは?
「特前所得」とは、カンタンに言えば、「収入 − 経費」のことです。
個人事業者・フリーランスが、1年間に稼いだ収入から、1年間に使った経費を差し引いた金額。つまり、「1年間の利益 = 特前所得」ということになります。
だったら、「特前所得」などと言わずに、フツーに「利益」と言えばいい。そのとおりではありますが。一応、理由はあります。
その理由は、確定申告の提出書類である、「青色申告決算書」を見ればわかります ↓
「特前所得」とは、上記の赤枠部分の「差引金額」を差します。ここが「収入 − 経費」です。
青色申告決算書では、このあとさらに、青枠部分の「専従者給与(家族への給与)」や「青色申告特別控除(青色の特典・65万円または10万円)」などを差し引きます。
結果、緑枠部分の「所得金額」が計算されることになるわけです。
よって、「差引金額」のことを「特前所得」と呼ぶのは、専従者給与や青色申告特別控除など、”特”別なモノを差し引く”前”という意味合いであり。さいごの「所得金額」とは区別をしているのです。
ではなぜ、税務署や銀行は、「特前所得」に注目をしているのでしょうか? このあとお話をしていきます。
税務署が気にする「特前所得」のポイント
ここまでは、特前所得とは「収入 − 経費」ですよ、というお話をしてきました。
ここからは、税務署が「特前所得」をどのように見ているのか、についてです。税務調査の有無に関わるところでもありますから押さえておきましょう。
税務署が、特前所得を見るときのポイントは。ずばり、「その特前所得で、生活をすることができるのか?」です。
申告する前に「特前所得 > 生活費」をチェックせよ!
税務署が「特前所得」を見るポイントは、「その特前所得の金額で、生活をすることができるのか?」だと言いました。
これについて、具体例で見てみることにします。
【問】個人事業者 Aさんの特前所得に問題はあるか?
- Aさん家族の年間の生活費(住居費、食費、教育費、社会保険料その他もろもろ)は 5,000,000円
- Aさんの奥さんへの専従者給与(青色申告決算書の「38. 専従者給与」)は 960,000円
- Aさんの青色申告特別控除(青色申告決算書の「44. 青色申告特別控除額」)は 650,000円
- Aさんの特前所得(青色申告決算書の「33. 差引金額」)は 3,000,000円
- Aさん一家には、Aさんの事業以外の収入はない
さぁ、いかがでしょうか。【問】にはいろいろ記載されていますが、答えはシンプルです ↓
【答】
- 特前所得 3,000,000円 < 生活費 5,000,000円
よって、生活をすることができないと思われ、問題あり。
あらためて、特前所得とはなにかを考えてみると。特前所得とは、Aさん一家の生活費を支払う原資となるおカネです。
だから、専従者給与を差し引く前(奥さんの給与もAさん一家のもの)、青色申告特別控除を差し引く前(青色申告特別控除は実際におカネを支払うものではない)の「特前所得」を見ているのです。
その特前所得が、生活費よりも少ないということは。理屈のうえでは、「生活できないじゃん、なんかおかしいじゃん」と税務署は考える。これが、税務調査の引き金になりえます。
税務署が疑うのはいつだって「脱税」
「生活できないじゃん、なんかおかしいじゃん」ということについて。税務署が疑うのは「脱税」です。
さきほどの【問】で言うのなら。「特前所得 3,000,000円 < 生活費 5,000,000円」で、足りないのは 200万円分。たとえば、
- 「売上」を 200万円くらいは抜いているんじゃなかろうか?
- プライベートの支払いのうち 200万円くらいを、「経費」だと偽っているんじゃなかろうか?
みたいなことを、税務署は疑っているわけです。
もちろん、これまでの「貯金」を取り崩して生活をしているんだ、という事実もありえるでしょう。
とはいえ、ひとまず、目の前の青色申告決算書(収入 − 経費)を見て、「疑う」ということは決しておかしなハナシでもないでしょう。「疑う」のが税務署の仕事でもありますし。
それに。何年にもわたり、「特前所得 < 生活費」ということがあるのであれば。さすがに貯金を取り崩すにも限界があります。
というわけで。確定申告書を提出する前には、特前所得と生活費とを比べてみるクセをつけましょう。
極端な脱税はしないにしても、「ちょっと無理くり経費にしている、ダメモトで経費にしている」というものが多すぎるかもしれません。
その場合には、「特前所得 < 生活費」というカタチであらわれますから注意をしましょう。税金が少なくてよかったね、では済まされないのです。
銀行が気にする「特前所得」のポイント
続いて、銀行は「特前所得」をどのように見ているのか、についてです。銀行融資の可否に関わるところでもありますから押さえておきましょう。
銀行が、特前所得を見るときのポイントは。ずばり、「その特前所得で、返済をすることができるのか?」です。
融資を相談する前に「特前所得 > 生活費 + 返済額」をチェックせよ!
銀行が「特前所得」を見るポイントは、「その特前所得の金額で、貸したおカネを返済することができるのか?」です。
これについて、具体例で見てみることにします。
【問】個人事業者 Aさんの特前所得に問題はあるか?
- Aさん家族の年間の生活費(住居費、食費、教育費、社会保険料その他もろもろ)は 5,000,000円
- Aさんの奥さんへの専従者給与(青色申告決算書の「38. 専従者給与」)は 960,000円
- Aさんの青色申告特別控除(青色申告決算書の「44. 青色申告特別控除額」)は 650,000円
- Aさんの特前所得(青色申告決算書の「33. 差引金額」)は 5,000,000円
- Aさんが銀行から借りようとしているおカネの年間返済予定額は 960,000円(元金部分のみ)
- Aさん一家には、Aさんの事業以外の収入はない
さぁ、どうでしょう? やはり【問】にはいろいろ記載されていますが、答えはシンプルです ↓
【答】
- 特前所得 5,000,000円 < 生活費 5,000,000円 + 返済額 960,000円
よって、返済をすることができないと思われ、問題あり。
経理のルールのお話になりますが、銀行への返済額のうち、利息は「経費」になります。
いっぽうで、元金は「経費」になりません。おカネを借りたときにも収入にならないので、返すときにも経費にはならない。と覚えておきましょう。
したがって、銀行から借りたおカネの返済原資は「特前所得」なのです。
その特前所得が、生活費と返済額の合計額より少ないということは。理屈のうえでは、「返せるわけないじゃん」と銀行は考える。これが、融資お断りの引き金になりえます。
銀行が疑うのはいつだって「粉飾」
「返せるわけないじゃん」ということについて。銀行は、さらにもう一歩踏み込んで考えています。
どういうことかと言うと。特前所得、つまり、青色申告決算書の「33. 差引金額」には、粉飾(利益の水増し)はないのか? ということまで考えています。
もし仮に、「特前所得 > 生活費 + 返済額」だとしても。青色申告決算書に粉飾があれば、実は、「特前所得 < 生活費 + 返済額」かもしれない。銀行は、そう疑っているのです。
たとえば、
- 架空売上を計上していないか
- 本来、損失計上が必要な不良在庫や不良債権を隠していないか
- 経費に計上すべきものを、仮払金・立替金などに偽っていないか
みたいなことを、銀行は疑っているわけです。
実際には、粉飾をしていないとしても。単なる「異常値」を見て、粉飾を疑うケースもないわけではありません。
ですから、銀行が「疑う」ポイントを理解して、こちらから説明をできるのがベストです ↓
説明をできずに放っておけば、勝手に「粉飾」と見られて、銀行が独自に計算し直した「特前所得」でもって「 生活費 + 返済額」とを比較されることになります。
銀行からなにも言われていないのだからいいのだろう、ではダメなこともあるのです。気をつけましょう。
経費のなかに、「減価償却費」がある場合には。次の算式で、融資ができるかどうかを見ることになります ↓
- 特前所得 + 減価償却費 > 生活費 + 返済額
これは、「減価償却費」がおカネの支出を伴わない経費だからです。詳しくはこちらの記事をどうぞ ↓
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まとめ
税務署・銀行が気にしている「特前所得」についてお話をしてきました。
日常の中で「特前所得」などという言葉を使うことはそうありませんけれど。
個人事業者・フリーランスであれば、その考え方はしっかりと押さえておきましょう。税務調査の有無や、銀行融資の可否に関わります。
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きょうの執筆後記
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