会社の銀行融資にはツキモノの経営者保証。はずしてくれないかなぁ…
と、待っているだけでははずれません。経営者保証を解除するために必要なのは銀行交渉。そのタイミング・条件・材料についてお話をします。
経営者保証を解除したければ、銀行交渉が必要になる
会社が銀行から受ける融資について、「社長が個人保証をしている」というケースは少なくありません。いわゆる「経営者保証」です。
これはこれであたりまえ、との見方もありますが。状況・環境は変わりつつあり、「経営者保証があたりまえ」ではなくなっています。
ならば、ぜひとも個人保証をはずしてほしい、経営者保証を解除してほしい。というのが、社長の思いでしょう。
ところが、おカネを貸す側の銀行からすれば、やはり経営者保証があったほうが安心です。したがって、こちらがなにもしなければ、経営者保証はあたりまえについてきます。
いくら状況・環境が変わりつつあるとは言っても、銀行のほうから経営者保証の解除を積極的にすすめられることはない、ということです。
そう考えると、経営者保証を解除するためには、こちらから銀行と交渉をしなければいけません。
そこで、銀行交渉のポイントについてお話をしていきます。次の3点です ↓
- 銀行交渉のタイミング
- 銀行交渉の条件
- 銀行交渉の材料
それでは、このあと順番に見ていきましょう。
銀行交渉のタイミング
経営者保証の解除をすすめるにあたって、銀行交渉のタイミングは次のとおりです ↓
- あらたに融資を受けるとき
- 借り換えをするとき
- 銀行から営業を受けたとき
いま現在受けている融資について、当初の契約を見直して経営者保証をはずしてもらう、ということは難しく。
あたらしい融資・あたらしい契約のとき、が「経営者保証無し」を交渉するタイミングだと言えます。
また、銀行からの営業、つまり「おカネを借りてもらえませんか?」との話があったときにはチャンスです。
銀行が営業をするということは、なにかしらの思惑があって融資をしたいわけですから。ふだんであれば難しい条件でも、交渉しだいで飲んでくれる可能性があります。
銀行から融資をすすめられたら、経営者保証をはずせないかな? と考えてみましょう。
銀行交渉の条件
前述した「タイミング」さえ合えば、いつでも銀行と交渉できるかと言うと、そうでもありません。
冒頭でも触れたとおり、銀行は経営者保証があったほうが安心なのです。ゆえに、経営者保証を解除するに値する相手でなければ、交渉に応じてもらうことはできないでしょう。
この点で、「経営者保証に関するガイドライン」が参考になります。
平たく言うと、経営者保証に関するガイドラインは、「イイ会社については、経営者保証を求めないことを検討せよ」ということが書かれた文書です。
日本商工会議所と全国銀行協会の協力のもと、平成25年につくられたものであり、法的強制力はなく、いわば「紳士協定」と言えますが。
経済産業省や財務省の後押しもあり、融資の現場に少しずつ浸透が進んでいるものです。
その「経営者保証に関するガイドライン」には、経営者保証を解除するうえで「借り手に努力を求めること」が記されており、これを銀行交渉の前提条件と捉えることができます ↓
- 法人と経営者との関係の明確な区分・分離
- 財務基盤の強化
- 財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保
これらに努め、実行できている会社であれば。経営者保証を解除するに値する会社として、銀行交渉ができると考えてよいでしょう。
上記の3点について、以下、補足をします。
法人と経営者との関係の明確な区分・分離
たとえば、社長個人所有の建物を、会社が事務所や工場などとして借りている。
これについて、会社が社長から建物を買い取る(会社所有にする)ことは、「法人と経営者との関係の明確な区分・分離」のひとつだと言えます。
とはいえ、「会社が使う資産はすべて会社所有に」と、杓子定規に考えるものでもありません。
会社と社長のあいだに「適正な賃料のやりとり」が証明できるのであれば、それもまた「明確な区分・分離」だと言うことはできるでしょう。
逆に、これはダメだ… という例は。社長への貸付金(仮払金、立替金などの名称問わず)がある、社長への役員報酬や家賃の支払いが一般的に見て過大である、など。
中小企業にはありがち、とも言えるところなので決算書を見直してみましょう。
財務基盤の強化
ひとことで言えば、業績をよくしよう、ということです。具体的な目安として、次のようなものが挙げられます ↓
- 年間借入金返済額 < 税引後利益 + 減価償却費
- 借入金残高 < 担保有高
- 自己資本比率が 20%以上
これらが実現できているような会社は、経営者保証を解除するに値する業績だとして、銀行にアピールできるところです。
また、経営計画書の作成・実行管理をしているのであれば、財務基盤強化への取り組みとして、あわせてアピールをしていきましょう。
財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保
難しい言い回しになっていますが、まずは「正しい決算書をつくりなさい」ということです。
その前提として。不特定多数に決算書を開示する大企業と比べると、中小企業の決算書はルーズである、との現実があります。
極端を言えば、粉飾決算をしている。そこまでではなくとも、守るべき会計のルールが守られていないとか。中小企業の決算書には散見されるところです。
したがって、銀行に対しては「正しい決算書をつくっています」とのアピールが大切です。
具体的には、決算書はただ渡すだけではなく、内容について説明・報告をする。顧問税理士の協力をえて「中小企業の会計に関する基本要領チェックリスト」を提出するなど ↓
また、「正しい決算書」とは別に、「情報開示」も求められています。決算書だけでは、経営者保証を解除するに値する相手かどうか、判断するには足りないということです。
この情報開示について、まずできることに「試算表の提示」があります。試算表は毎月つくっているはずですから(つくっていなければつくりましょう)、毎月それを銀行に見せるだけです。
これによって銀行は、決算にいたる推移や、決算書の正確性の確認などをすることができます。
加えて、ローカルベンチマークなど、いわゆる「事業生評価」に関連する資料の提示も効果があるでしょう。積極的に取り組みたいところです ↓
銀行交渉の材料
経営者保証の解除を銀行と交渉するにあたり、「言い出しにくい」ということがあるかもしれません。
そこで、言い出すときのきっかけとして、「交渉材料」を持っておくのがよいでしょう。
まずは、「経営者保証に関するガイドラインの活用実績」です。金融庁が定期的に公表しています。
平成31年1月の公表によれば、平成30年4月〜9月の「民間金融機関における新規融資件数」のうち、「経営者保証に依存しない融資」の割合は 19.1%。
平成29年4月〜9月の 16.5%と比べると、2.6ポイント上がっています。さらにその前の平成28年4月〜9月は 14%であり、そこから見れば 5ポイントアップです。
これらの数字から、「世の中全体の流れ」として経営者保証解除がすすんでいるのだからウチも… と話を切り出すことができるでしょう。
また、「個々の銀行の取り組み」についても、交渉材料と考えることができます。具体的には、「金融仲介機能のベンチマーク」です。
「金融仲介機能のベンチマーク」とは、金融庁が各銀行の取り組みを評価するための指標であり、各銀行がWEBページなどで実績を公表しています。
この指標のなかには、「経営者保証に関するガイドラインの活用先数」などといったものもあり、各銀行の取り組み姿勢を知ることも可能です。
そこから積極的に取り組んでいる銀行だとわかれば、「ウチの会社もぜひ…」という話がしやすくなります ↓
それでも経営者保証の解除には応じてもらえないときには、どうしたら解除をしてもらえるのか? 解除できる会社とウチの会社のなにが違うのか? といったことを教えてもらうようにしましょう。
あらためて交渉をするときの参考として役立ちます。
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まとめ
銀行融資について、経営者保証を解除するには? というお話をしてきました。
待っているだけでははずれないのが経営者保証です。経営者保証を解除するためには、こちらから銀行交渉が必要だ、と理解をしておきましょう。
- 銀行交渉のタイミング
- 銀行交渉の条件
- 銀行交渉の材料