融資を受けようとする会社が、銀行から提示を求められる「試算表」について。
試算表が原因で融資を受けられなかった会社の事例と、逆に、試算表が原因で融資を受けられた会社の事例とをお話していきます。
総まとめの決算書・途中経過の試算表
銀行が融資の可否を検討するときに重視するものとして、会社の「決算書」が挙げらます。決算書の良し悪しを見て融資を検討する、ということです。
その決算書と似て非なるものに「試算表」があります。
決算書も試算表も、「会社の業績を数字で示す」という点では同じなのですが。決算書は1年間の「総まとめ」なのに対して、試算表は決算までの「途中経過」であるという点では異なります。
銀行が会社に対して、決算書だけではなく試算表まで提示を求めるのは、決算後の途中経過(言い換えると、いま現在の状況)を知るためです。
そんな「試算表」について。実際に受けている銀行融資のご相談のなかから、試算表が原因で融資を受けられなかった会社の事例と、逆に、試算表が原因で融資を受けられた会社の事例とをお話していきます ↓
- 試算表が原因で融資を受けられなかった事例
- 試算表が原因で融資を受けられた事例
それでは、このあと順番に見ていきましょう。
試算表が原因で融資を受けられなかった事例
《事例1》業績悪化+試算表なし
直前の決算からは半年を経過しているA社さん。「銀行から融資を受けたいが断られてしまった…」とのご相談です。
なお、A社さんが銀行に提示済みの決算書(過去3年分)は次のとおり ↓
(単位:千円) | 直前々々期 | 直前々期 | 直前期 |
売上高 | 100,000 | 93,000 | 85,000 |
売上原価 | 30,000 | 28,000 | 21,250 |
その他経費 | 65,000 | 64,000 | 63,500 |
税引前利益 | 5,000 | 1,000 | 250 |
ちなみに、当期半年分の試算表は「つくっていない」とのこと。1年に1度、顧問税理士に決算書をつくってもらうだけ、だそうです。
結論として。A社さんが銀行から融資を断られた原因は、「業績悪化に加えて、試算表がないこと」だと考えられます。
上記の決算書を見ればわかるとおり、ここ3年間は減収減益(売上も利益も減っている)です。しかも、直前期には「粉飾」のニオイがプンプンします。
直前々々期・直前々期は、「原価率(売上原価÷売上高 )」が 30%ていどなのにもかかわらず、直前期は 25%ていどです。税引前利益もギリギリの黒字で、まるで「つくったような数字」だと言えます。
こうして見ると、A社さんは業績悪化の典型です。銀行としては、「いまどうなっているのか?」を知りたいことでしょう。ゆえに、試算表が必要。なのに試算表がない、というのが問題なのです。
試算表がないので途中経過はわからない。しかも、直前の3年間は業績悪化傾向となれば、銀行が「怖くて貸せない」と考えるのは当然です。
そもそも。決算日から2〜3ヶ月たっていると、銀行は「途中経過を見るため」に試算表の提示を求めます。そのときに試算表がない会社は、「管理能力」がない会社だと自白をするようなものです。
あたりまえのことにはなりますが、試算表はタイムリーにつくること。銀行の求めがあれば、すぐに提示できるようにしておきましょう。
《事例2》精度が低い試算表
試算表をつくっているし、銀行にも提示した。そんな会社でも、試算表が原因で融資が受けられないケースはあるものです。
B社さんの事例を見てみましょう。「直前期の決算書」と「現在(4ヶ月め)の試算表」から、貸借対照表の一部を抜粋したものがこちらになります ↓
(単位:千円) | 直前期 決算書 | 現在の試算表 |
…(略)… | ||
売掛金 | 15,500 | 15,500 |
商品 | 18,300 | 18,300 |
…(略)… | ||
建物 | 34,500 | 34,500 |
機械装置 | 26,800 | 26,800 |
…(略)… |
ポイントは、いずれの数字も「直前期の決算書」と「現在の試算表」とで違いがないことです。まったく同じ。
まず、売掛金について。
売掛金は、掛けによる売上が発生したときに増えて、入金があったときに減ります。つまり、常に数字は変動しているはずです。ところが、直前の決算から4ヶ月たっても、その数字は変わっていません。
理由は、B社さんが「発生主義」ではなく、「現金主義」で経理をしていたからです。毎月の利益がアテにならない「現金主義」を銀行は嫌うことを覚えておきましょう。発生主義と現金主義について、くわしくはこちらの記事を ↓
続いて、商品について。
商品は「在庫」をあらわす数字です。その在庫が 18,300千円というのは、中小企業としてはなかなかの金額であり、銀行としても在庫管理の状況は気になるところでしょう。
ところが、直前の決算から4ヶ月たっても、在庫の金額に変わりがありません。理由は、毎月々は在庫を数えていないからです。決算のときだけ。結果として、決算で在庫を数えてみたら利益が激変した… ということが起こりえます。
やはり、毎月の利益がアテにならないという点で、銀行から嫌わることを覚えておきましょう。
さいごに、建物・機械装置について。
B社さんは、直接法で減価償却をしています。直接法とは、減価償却費を直接、対象の資産から減額する方法です。言い換えると、「減価償却累計額」の勘定科目は使わない。
であるならば。減価償却を毎月していれば、建物や機械装置の金額は徐々に減少していくはずです。ところが、直前の決算から4ヶ月たっても、それらの金額に変わりがありません。
理由は毎月々は減価償却をしていないからです。代わりに、決算で1年分まとめて減価償却をしています。すると、決算を迎えたときに大きく利益が減少することから、毎月の試算表の利益はアテになりません。
このように、毎月の利益がアテにならない試算表では、たとえ試算表を毎月つくっていたとしても、銀行からの融資が難しくなります。
事実、銀行からは「試算表の精度が低いので、きちんとつくってほしい」との要望があったとのことです。ただつくればいい、というわけではありません。じゅうぶんに気をつけましょう。
試算表が原因で融資を受けられた事例
《事例3》直前期の決算赤字 + 年換算の試算表
ここまでは、試算表が原因で融資を断られた会社の事例についてお話をしてきました。ここでは、試算表が原因で融資を受けられた会社の事例をお話します。
C社さんの「直前期の決算書」と「現在(10ヶ月め)の試算表」は次のとおりです ↓
(単位:千円) | 直前期 決算書 | 現在の試算表 |
売上高 | 80,000 | 70,000 |
売上原価 | 32,000 | 25,000 |
その他経費 | 50,000 | 40,000 |
税引前利益 | ▲ 2,000 | 1,000 |
上記のとおり、直前期の決算書は「200万円の赤字」です。これに対して、決算から10ヶ月めにあたる現在の試算表は「100万円の黒字」になります。
決算書と試算表で比べた場合、銀行がより重視するのは「決算書」です。決算書は「確定」した数字なのに対して、試算表は「途中経過」の数字に過ぎないからです。
したがって、C社さんの例では、試算表の黒字よりも決算書の赤字のほうを銀行は気にします。実際に、C社さんがこの試算表をもとに融資を依頼したところ、「次の決算を見てから検討しましょう」との回答だったそうです。
それでもいま融資を受けておきたい、というC社さんからのご相談への対応が「年換算」になります ↓
(単位:千円) | 直前期 決算書 | 試算表 | |
現在 | 年換算 | ||
売上高 | 80,000 | 70,000 | 84,000 |
売上原価 | 32,000 | 25,000 | 30,000 |
その他経費 | 50,000 | 40,000 | 48,000 |
税引前利益 | ▲ 2,000 | 1,000 | 6,000 |
ポイントは、一番右端の列にある「年換算」です。現在(10ヶ月め)の試算表をもとに、それぞれの数字に「12 / 10」を掛け算して年換算しました。当期の決算書がどれだけ黒字になりそうかをわかりやすくするためです。
ただし、ただ年換算すればいい、という話ではなく。当然、年換算するもとになる試算表が「正確」でなければいけません。
なお、ここで言う「正確」な試算表とは。前述した「精度が低い試算表」と逆のもの、になります。
現金主義ではなく発生主義であること、在庫は毎月々数えていること、減価償却費は毎月々計上していること、などなど。
年換算した試算表を銀行に提示するにあたっては、試算表が「正確」であること、決算書と同じ精度でつくっていることを説明します。
決算のときに作成する「勘定科目内訳明細書」も合わせて試算表に添付することで、銀行にはより安心をしてもらえるはずです。
また、損益計算書の年換算だけではなく、必要に応じて、決算時点の予測貸借対照表を作成・提示するのもよいでしょう ↓
銀行からしてみると、どうしても「試算表はアテにならない、精度が低いもの」という考え方が通常です。ゆえに、決算書が重視されます。
それでも試算表を評価してほしいのであれば、試算表の精度にこだわり、年換算などの工夫も検討してみましょう。
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まとめ
融資を受けようとする会社が、銀行から提示を求められる「試算表」。
試算表が原因で融資を受けられない会社と、逆に、試算表が原因で融資を受けられる会社とがあります。事例を参考に、自社の試算表で融資をうけられそうか?を確認しておきましょう。