欠かすことができない資金調達手段、銀行融資。その銀行融資をより理解するために、バブル崩壊からの歴史をふり返ります。
賢者は歴史に学ぶ。
会社を続けるうえで、欠かすことができない資金調達手段が「銀行融資」です。その銀行融資について、テクニックやノウハウを学ぶのも悪くはありません。
が、銀行融資の歴史も学んでおくと、さらに理解が深まります。オットー・フォン・ビスマルクさんは言いました、「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」。というわけで、銀行融資の歴史を学んでいきましょう。
具体的には、バブル崩壊までさかのぼり、そのうえで現在まで戻り、さらにはこの先の方向性まで、という流れでお話をしていきます↓
- バブル崩壊と不良債権
- 金融検査マニュアルの全盛
- 伴奏支援型融資の世界へ
それではこのあと、順番に見ていきましょう。
バブル崩壊と不良債権
1980年代後半、日本では「資産価格バブル」が広がっていきました。資産価格バブル、つまり、不動産や株式などについて、「実際の価値」よりも「期待する価値」が大きく上回り、道理にかなわぬほど実勢価格が高騰してしまう状態です。
地価は上がる・上がり続ける、という「土地神話」が生まれました。猫も杓子も不動産、「不動産ブーム」の到来です。あわせて、「地上げ」や「土地ころがし」といった問題も起き、不動産市場は機能不全に陥ります。地価は異常なまでに上昇した結果、いよいよバブルの終わりが近づくわけです。
1990年になると、地価・株価ともに下落をはじめます。日銀は低金利政策をやめて、利上げに転換。政府は不動産投資に対する融資を規制。これらの動きとバブルの反動もあいまって、地価も株価も長い長い低迷期に入ります。バブル崩壊です。
では、バブル崩壊により、銀行にはなにが起きたのか? 不良債権の山ができました。バブル期には、不動産や株式の時価上昇を見込んで、たくさんの融資がおこなわれていたのです。ところが、バブル崩壊によって、それらの時価は急落。融資先の返済能力をはるかに超えた融資残高だけが残りました。というのが、不良債権の山です。
具体的には、都市銀行にあっては、およそ30兆円。地域金融機関(地方銀行・信用金庫など)にあっては、およそ15兆円。メガバンク一行あたりの利益が、およそ5,000億円と考えると、いかに巨額の不良債権であったかがわかります。ちなみに、信用金庫の利益は一庫あたり、多くても100億円くらいです。
金融検査マニュアルの全盛
不良債権の山に対応するため、1999年、金融監督庁(いまの金融庁)は「金融検査マニュアル」なる指針を制定します。
これは、金融庁の検査官が、金融機関の検査を行うときに使われるマニュアルなのですが、検査をされる側の金融機関にも、その「考え方」が浸透していきました。
具体的には、融資先が「債務超過(資産より負債が多い)ではないか」「担保・保証はじゅうぶんか」という考え方です。これと、不良債権のオフバランス化(状況が悪い会社は担保処分により回収する)もあって、不良債権は減少していきます。
いっぽうで、銀行には「裁量の余地」がなくなり、「画一的・機械的」な融資が広がっていきました。黒字ありき、担保・保証ありきの融資です。これを揶揄して言われたのが、「貸し渋り・貸し剥がし」になります。
というように、金融検査マニュアルは不良債権処理には効果を発揮したものの、銀行融資という点では問題を起こすものでもありました。その問題を、かんたんにまとめてみると、次のとおりです。
- 財務データへの依存
- 担保・保証への依存
- 証書貸付への依存
- 目利き力の低下
財務データへの依存は、言い換えると、決算書への依存です。決算書の内容が良くなければ融資はできない、という銀行の姿勢が硬直化しました。
そして、決算書の内容が悪ければ、担保・保証がなければ融資はできない、との姿勢につながっています。必要以上に担保を取る、必要以上に保証を求める(第三者保証人まで)といったことが起きたわけです。
また、経常運転資金(売上債権+たな卸資産ー仕入債務)の融資については、本来、短期継続融資(手形貸付)をすべきところ、長期の証書貸付に一辺倒になる、という事態が起きました。
いまなお続く、経常運転資金の証書貸付は、多くの中小企業の資金繰り悪化の原因にもなっています。これもまた、金融検査マニュアルが残した問題のひとつです。
これらをふまえて、銀行員の「目利き力」が低下したことも問題として指摘されています。銀行員はそもそも、財務データや担保・保証ばかりではなく、融資先の事業内容や成長可能性、経済環境などもふまえて、評価・審査をする目を持っていたはず。その目利きが失われてしまった、ということです。
伴奏支援型融資の世界へ
バブル崩壊にともなう不良債権の処理も一段落したことを受け、2019年末、金融検査マニュアルは廃止になりました。金融検査マニュアル自体が悪いわけではありませんが、その考え方があまりに浸透しすぎた結果、銀行の姿勢が硬直化したことには問題があります。
では、マニュアル廃止後にはどうなるのか? 各銀行の裁量により、これまでよりも柔軟な融資が「期待」されるところです。20年にわたり、金融検査マニュアルの考え方が染み込んでいますから、変わるのにも時間がかかります。ゆえに、いまの段階では「期待」ということになるでしょう。
それでも、すこしずつ・確実に、変化は起きている現状を、社長は知っておくことが大切です。
その変化とは? ひとことで言うと、伴奏支援型融資です。これは、さらに2つに分かれます。「事業性評価」と「本業支援」です。
事業性評価とは、財務データや担保・保証に過度に依存せず、融資先の事業内容や成長可能性を評価する、という考え方になります。
いっぽう、本業支援とは。融資をしておしまい、ということではなく。そのあとも、銀行は融資先といっしょになって、事業の成長に関わっていく、という考え方です。
実際、事業性評価については、銀行は「事業性評価シート」なるものを用意して、情報収集をしています。すでに、ヒアリングをされた社長もいるかもしれません。
また、2021年4月からはじまった「伴走支援型特別保証制度」では、銀行が融資先といっしょに経営計画の検討をすること、銀行が経営計画の実行状況をモニタリングすることが求められています。
このような動きは、今後ますます加速していくはずです。ほんとうは、もっと早くに加速することを想定しいたはずですが、コロナの影響により、それどころではなくなった、という状況があります。
これからコロナが落ち着いていけば、こんどこそほんとうに、伴奏支援型融資は加速していくものと考えます。
では、そのとき会社は、社長はなにをすべきなのか?
ひとつは、銀行が事業性評価できるよう、こちらからも積極的に情報提供することです。具体的には、ローカルベンチマークというツールがあります。ぜひ、使ってみましょう。
ローカルベンチマークについて、くわしくはこちらの記事もどうぞ↓
そして、経営計画を作成・管理することです。経営計画をつくっていないのであればつくる。つくっていてもつくりっぱなしになっているのなら、きちんと管理する。
さきほどの「伴奏支援型特別保証制度」に見られるように、今後、銀行は本業支援にチカラを入れていくはずです(というか、チカラを入れていかないと生き残れない)。
そのときに、経営計画の作成・管理ができるかどうかは、銀行が支援すべき融資先かどうかを見極める要素になるでしょう。つまり、経営計画がないと、支援から漏れる可能性が高まるということです。
ローカルベンチマークや経営計画について、わからないこと・対応できないことがあれば。顧問税理士に聞いてみる、コンサルタントに支援を求めてみることも検討してみましょう。
これからの銀行融資の方向性を見極めて、早く動き出すことが大切です。
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まとめ
会社を続けるうえで、欠かすことができない資金調達手段が「銀行融資」です。その銀行融資について、より理解を深めるために、歴史を学ぶことが役立ちます。
過去から現在までの流れを知ることで、これから先の方向性が見えてくるはずです。方向性がわかれば、おのずと、どう対応すべきかも見えてきます。