会社が銀行に提出する資料にもいろいろありますが。なかでも、会計ソフトを利用して銀行に提出するとよい資料について、お話をしていきます。
会計ソフトを利用してつくれる資料はいろいろある。
会社が融資を受けるにあたって、銀行に提出する資料はいろいろありますが。なかでも、会計ソフトを利用してつくるとよい資料もまた、いろいろあるものです。おもなものを挙げると、次のとおりになります ↓
- 決算書
- 試算表
- 月次推移表
- 損益予測、資金繰り表
- キャッシュフロー計算書
- 売上内訳推移表
これらの資料についてそれぞれ、作成するときや銀行に提出するときのポイントにふれながら、お話をしていきます。融資の受けやすさにも影響するところですから、ぜひ押さえておきましょう。
会計ソフトを利用して銀行に提出するとよい資料
決算書
言わずもがな、の決算書。年にいちど、会社はつくらねばらならない書類であり、銀行からも提出を求められる書類でもあります。
その決算書は、会計ソフトを利用していれば、クリックひとつで出力できてしまうでしょう。もちろん、出力できればよいというハナシではなく、「なかみ」が重要であるのは間違いありません。
では、「なかみ」の注意点は…? というのは、本記事の論点ではないので省かせていただくとして。ここでは、出力上の注意点にふれておきます。
まずは、出力する書類の種類から。貸借対照表と損益計算書を出力する、というのは基本として。意外と忘れがちなのが、「株主資本等変動計算書」と「個別注記表」です。これらも、決算書に付随するものとして作成しなければいけません。
また、作成をしていても銀行には提出しなくてもいいのではないか? と、おもわれる社長もいるようですが。作成しなければいけない書類である以上、銀行もまた、その書類を確認したいと考えています。なので、提出をしなければ催促されることを理解しておきましょう。
加えて、もうひとつ。利用している会計ソフトを変えた場合には、銀行にその旨を伝えることをおすすめします。なぜなら、決算書の「見た目」は会計ソフトによって異なるからです。
文字の書体が違う、文字の大きさが違う、罫線の太さが違う、全体のレイアウトが違う、など。会計ソフトを変えたからといって、数字が変わるわけではありませんが、多少なりとも見た目は変わります。
すると銀行は、「もしかして二重帳簿(銀行用に利益を水増しした決算書をつくっている)?」と疑うことはあるものです。業績が不調気味の会社はとくに、ということを覚えておくとよいでしょう。
試算表
決算書と似たものに「試算表」があります。決算書が、1年にいちどつくる書類であるのに対して、試算表は毎月いちどつくる「べき」書類です。
決算書が作成を義務付けられているのに対して、試算表はそうではないことから、毎月つくっていない会社もあるでしょう。が、銀行対応の面からも、会社自身の面でも、試算表を毎月つくることをおすすめします。言うまでもなく、客観的(具体的な数字で)に現状を把握するためです。
それはそれとして、「銀行に提出する試算表は、どういう書式のものがよいのか?」とのご質問をいただくことがあります。基本的には、会計ソフトから「試算表(あるいは残高試算表など)」の名称で出力できる書式でだいじょうぶです。
このとき、出力する期間を選ぶことになります。たとえば、2022年4月の1ヶ月分を出力するとか、2022年2月〜4月までの3ヶ月分を出力するとか。銀行に、毎月提出するのであれば前者、3ヶ月にいちど提出するなら後者、といった感じです。
その試算表には、各勘定科目について「借方金額」と「貸方金額」が記載される点には気をつけましょう。これにより「デキる銀行員」は、仕訳を読み解きます。結果として、試算表の精度の甘さを見抜かれる可能性がある… という点は、こちらの記事でどうぞ ↓
また、会計ソフトによっては、試算表を「2期比較」や「3期比較」で出力することもできます。つまり、前年同月や前々年同月と比較できる書式の試算表です。
これはこれで、銀行から見ると「比較がしやすくわかりやすい資料」になりますので、前述の書式とあわせて提出するのもよいでしょう。2期比較や3期比較は、社長自身にとっても役立つ資料ですから、銀行対応以前に確認をすることをおすすめします。
月次推移表
続いては、「月次推移表」です。帳票名称はともかく、書式としてはいずれの会計ソフトでも出力可能な書類になります。
その書式は、縦軸は「勘定科目」、横軸は「月(1年間)」です。「損益計算書」の月次推移であれば、毎月の売上高や各費用、利益を一覧することができます。各数字が毎月どのように変化しているかがわかる資料であり、銀行にとっても社長にとっても有用な資料です。
同じように、「貸借対照表」の月次推移であれば、資産や負債、純資産の推移を確認できます。
月次推移表を銀行に提出するかどうかは、任意です。この点で、自社の業績が上昇傾向にあるときなどは、積極的に提出をするとよいでしょう。毎月の推移から上昇傾向にあることを、数字で説明できる、よい説得材料になります。
なお、会計ソフトから、月次推移表を CSVデータで出力して、Excelで適宜加工するのもおすすめです。
経費の勘定科目はあまり多いと見にくいので、あるていど「集約」をする。目立たせたい数字には装飾(セルの書式設定や条件付き書式の設定など)をする、推移をグラフ化する(あるいはスパークラインの利用)など。銀行に説明をするにも、社長が確認をするにも、より役立つ資料になるはずです。
ちなみに、売上高や仕入高、人件費などの毎月の金額は、税務申告書に付随する「法人事業概況説明書」にも記載されます。銀行は、それと月次推移表の数字とを比較して、「違いはないか(期中に粉飾をしていなかったか?)」を確認していることがあるので注意が必要です。
よって、銀行に試算表や月次推移表を提出したら、さかのぼって会計データを修正しないようにしましょう。銀行に、余計な疑念をいだかせるきっかけになりかねません。
損益予測、資金繰り表
前述の月次推移表をもとにつくる資料として、「損益予測」があります。
たとえば、12月決算の会社で、いまが5月。試算表は4月までできているとしましょう。この時点で、月次推移表を出力すると、5月〜12月までの8ヶ月間は「空欄」になります。この空欄部分を「予測(計画)」して埋めていき、最終的には、決算での数字を予測するのが、「損益予測」です。
実際に損益予測をつくるときには、会計ソフトから月次推移表のデータを CSVで出力して、Excelに取り込んだうえで作業をするのがよいでしょう。見た目の書式としては、「損益計算書の月次推移表」と同じです。なかみの数字が、予測か実績かの違いになります。
その損益予測をつくることができたら、あわせてつくりたいのが「資金繰り表」です。損益予測が「損益(利益)」の予測を示す書類であるのに対して、資金繰り表は「資金(おカネ)」の予測を示す書類になります。
利益とおカネの動きは、まったく一致するわけではありません。そのうえで、銀行は「おカネの動き」に注目をしています。利益もだいじだけれど、おカネこそが返済原資だからです。極端を言えば、いくら赤字でもおカネさえあれば、銀行は返済をしてもらうことができます。
したがって、資金繰り表を銀行に提出できる会社は、銀行からの融資を受けやすいものです。当然、資金繰りは社長にとっても重要な関心事ですから、やはり資金繰り表をつくったほうがよいでしょう。
損益予測をもとに、資金繰りの予測をすることで、資金繰り表をつくることができます。具体的なつくりかたについては、こちらの記事も参考にどうぞ ↓
キャッシュフロー計算書
貸借対照表、損益計算書についで、「第3の財務諸表」といわれるのが「キャッシュフロー計算書」です。が、財務諸表といっても、中小企業にはキャッシュフロー計算書の作成義務はありません。
ゆえに、銀行は銀行で「勝手」に、キャッシュフロー計算書をつくっています。キャッシュフロー計算書とは、キャッシュ(おカネ)の「増減額」と「増減理由」を把握できる書類であり、キャッシュ(おカネ)は返済原資として銀行の関心事だからです。
そうして、銀行は確認をしている書類なのですから、当事者である社長が知らないというのではよくありません。社長が銀行と話をするうえでも、情報が少ない分だけ不利にはたらきます。
というわけで、会社のほうでもキャッシュフロー計算書をつくっておくのがおすすめです。キャッシュフロー計算書は、会計ソフトのデータをもとにつくることができます。
会計ソフトによっては、キャッシュフロー計算書を作成する機能があるものの、おそらく「初期設定」が難儀です。ここが不十分だと、おかしなキャッシュフロー計算書ができあがるので注意しなければいけません。
そこで、ひとつおすすめをするのが、こちらのツールです ↓
中小企業の会計31問31答(平成21年指針改正対応版)ツール集 / 中小企業庁
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/kaikei/tools/2009.htm
上記のURLから、「会計ツール集」として Excelファイルをダウンロードできます。平成21年なんて、だいじょうぶかいな? と、思われるかもしれませんが。だいじょうぶです、まだつかえます(2022年5月10日現在)。
Excelファイルのなかに、「CF計算書(入力)」というシートがあるので、自社の決算書を見ながら入力していきましょう。親切にも「CF計算書入力の仕方」という説明シートもあります。
入力すると、「CF計算書(出力)」のシートに結果が表示される、という流れです。会計ソフトの機能で、おかしなキャッシュフロー計算書をつくるよりは、こちらの方法をおすすめします。
なお、キャッシュフロー計算書ができたのはいいけど、「見方がわからない!」ようでしたら、わたしが書いているこちらのブログ記事を参考にどうぞ↓
売上内訳推移表
会計ソフトのなかには、さまざまな数字がありますが。なんだかんだいって、いちばんよくつかう数字、いちばんよく見られる数字は「売上高」でしょう。
もちろん、売上のほかにも、利益やおカネもだいじであるのは言うまでもないことです。とはいえ、利益をあげるにも、おカネを増やすにも、多かれ少なかれ売上がなければはじまりません。
よって、銀行にとっても売上高は、強い関心がある数字であることは理解しておきましょう。
そのうえで、会計ソフトを利用してつくりたい資料が「売上内訳推移表」になります。文字どおり、売上の内訳について推移を一覧にした書類です。
書式としては、縦軸に「売上の種類」を、横軸に「月(1年間)」になります。縦軸を、具体的にどうするかはケースバイケースです。たとえば、売上先ごと、部門ごと、商品ごと、店舗ごと、社員ごと、などといった種類がありえます。
いずれにしても、売上を細分化することで、売上の増減理由や売上の改善に役立つであろう種類を選択することがポイントです。その種類が決まったら、会計ソフトで集計できるように設定をしましょう。
会計ソフトによって、「補助科目」や「タグ」といった設定方法があります。いずれも、「売上高」という勘定科目の内訳を集計するのにつかえる設定です。よくわからないようでしたら、顧問税理士に相談をするなどして、ぜひ、つかえるようにしておきましょう。
売上高の内訳は、別途作業をしないとわからない… というのでは、もったいないハナシです。会計ソフトを、会計ソフトのデータを活用していきましょう。
まとめ
会社が銀行に提出する資料にもいろいろありますが。なかでも、会計ソフトを利用して銀行に提出するとよい資料について、お話をしてきました。
融資の受けやすさにも影響するところですから、ぜひ押さえておきましょう。
- 決算書
- 試算表
- 月次推移表
- 損益予測、資金繰り表
- キャッシュフロー計算書
- 売上内訳推移表