銀行が融資の可否を検討する際に注目している、重要な指標のひとつに「債務償還年数」が挙げられます。
そこで、債務償還年数について。そもそも債務償還年数とは? 算式や考え方などのお話をしていきます。
銀行融資の可否を左右する重要指標「債務償還年数」
会社・事業に対する銀行融資について。
銀行が融資の可否を検討する際に注目している指標のひとつに「債務償還年数」が挙げられます。
債務償還年数は、融資の可否を左右するほどの重要な指標です。
銀行融資を考えるのであれば、自社・じぶんの債務償還年数はどうなっているのかを押さえておきましょう。
というわけで。債務償還年数について、次のようなお話をしていきます ↓
- 債務償還年数とは
- 債務償還年数の算式3变化
- 債務償還年数を良くするために
それでは、このあと順番に見ていきましょう。
債務償還年数以外の重要指標については、こちらの記事をどうぞ ↓
債務償還年数とは
はじめに、「債務償還年数とは?」についてお話をしていきます。
債務償還年数の算式
まずは端的に、「債務償還年数とは?」を算式で ↓
債務償還年数 = 借入金の残高 ÷(税引後利益+減価償却費)
債務償還年数の算式は上記のとおりなのですが、ハナシを単純化するために、ひとまず「減価償却費」を除いたところで見てみると。
算式は「債務償還年数=借入金の残高 ÷ 税引後利益」になります。
ちなみに、算式中の「税引後利益」は、年間利益から税金(会社であれば法人税、個人事業者であれば所得税・住民税)を支払ったあとの「年間手取り額」をあらわします。
したがって、さきほどの「債務償還年数=借入金の残高 ÷ 税引後利益」は、「借入金の残高が、年間手取り額の何倍残っているか」だと言い換えることができます。
そこまで理解したところで、ひとまず保留していた「減価償却費」を呼び戻しましょう。減価償却費を税引後利益にプラスするのはなぜか?
それは、減価償却費が「経費ではあるけれど、おカネの支払いは過去に済んでいるもの」だからです。
減価償却費の分だけ税引後利益は少なくなっているけれど、おカネまで少なくはなっていない。手取り額は減っていない。だから足し戻す。
という説明が「なんのこっちゃ?」ということであれば。減価償却費のことは、ふたたび忘れていただいてもかまいません。
理屈はともかく、算式丸暗記(税引後利益に減価償却費をプラスする)で先に進みましょう。
前述した「借入金の残高が、年間手取り額の何倍残っているか」だという、債務償還年数の本質を押さえていればだいじょうぶです。
こちらの記事をどうぞ ↓
債務償還年数は「借りすぎチェック」の指標
債務償還年数は、「借入金の残高が、年間手取り額の何倍残っているか」をあらわしている。という話をしました。
これを、次のように言い換えることもできます ↓
借入金の残高が、年間手取り額の何倍残っているか
↓
いまの「年間手取り額」で返済をするとしたら、あと何年で借入金を返済できるか
いまの「年間手取り額」を維持できると仮定して。「年間手取り額」で返済をするとしたら、あと何年で借入金を返済できるのか?
それが債務償還年数のあらわすところだ、と言うことができます。
たとえば、借入金の残高 3,000万円、税引後利益 250万円、減価償却費 50万円ならば。
債務償還年数は「借入金の残高 3,000万円 ÷(税引後利益 250万円+減価償却費 50万円)=10年」になります。
この「10年」について、「長いなぁ…」ということであれば。年間手取り額に対して、おカネ借りすぎじゃない? と考えられるでしょう。
いっぽうで「短い!」ということであれば。まだ借入をする余力がある、と考えることができるでしょう。
というわけで、債務償還年数は「借りすぎではないか?」をチェックする指標として位置づけられているのです。
債務償還年数を銀行はどう見ているか?
債務償還年数は、「借りすぎチェックの指標」だという話をしました。
では、なにをもって「借りすぎ」とするのでしょうか?
この点で、すべての銀行に共通した目安が存在しています。それがこちらです ↓
債務償還年数 < 10年
上記のとおり。銀行は、「債務償還年数は10年未満が望ましい」と考えています。
逆に、10年以上になると「借りすぎだよね…」と考えます。
債務償還年数が10年未満なのか、10年以上なのか? これが、銀行融資の可否に影響することを覚えておきましょう。
したがって。債務償還年数が10年未満であれば「まだ貸せそうかなぁ」、10年以上であれば「もう貸さないほうがいいかなぁ」と銀行は考えているということです。
債務償還年数の算式3变化
債務償還年数が10年以上だと、銀行は「もう貸さないほうがいいかなぁ」と考える。というお話をしました。
ただ、そんなときでもまだ、債務償還年数が 10年未満になる可能性は残っています。
なぜならば。債務償還年数の算式は、前述した「1つだけ」ではないからです。実は、3つあります。
そこで、その3つを確認していきましょう。
《その1》シンプルバージョン
3つある算式のうちの1つめは、すでにご紹介済みです。これを「シンプルバージョン」と名付けて再掲しておきます ↓
債務償還年数 = 借入金の残高 ÷(税引後利益+減価償却費)
上記を再確認したうえで、2つめ以降の算式を見ていきましょう。
《その2》運転資金控除バージョン
2つめの算式を「運転資金控除バージョン」と名付けます。こちらです ↓
債務償還年数 = (借入金の残高 ー 運転資金) ÷(税引後利益+減価償却費)
※ 運転資金 = 売掛金・受取手形+たな卸資産 ー 買掛金・支払手形
シンプルバージョンとの違いは、「借入金の残高」から「運転資金」を控除(マイナス)していること。
ここで言う「運転資金」とは、計算式であらわすと「売掛金・受取手形+たな卸資産 ー 買掛金・支払手形」です。
この運転資金は、会社・事業を続けていくうえで「立て替え続けなければいけないおカネ」であり、当然に借入すべき金額として「借入金の残高」から控除しているのが上記の算式です。
よって、運転資金の金額が大きい場合には、債務償還年数は短くなります。
シンプルバージョンで計算をすると10年以上だとしても、運転資金控除バージョンならば10年未満だということもあるでしょう。
こちらの記事もどうぞ ↓
《その3》現金預金も控除バージョン
運転資金控除バージョンでも、債務償還年数が10年以上だという場合。もうひとつ、「現金預金も控除バージョン」が残っています ↓
債務償還年数 = (借入金の残高 ー 運転資金 ー 現金預金) ÷(税引後利益+減価償却費)
※ 運転資金 = 売掛金・受取手形+たな卸資産 ー 買掛金・支払手形
さきほどの「運転資金控除バージョン」をベースにして、さらに「借入金の残高」から「現金預金」を控除(マイナス)しているのが上記の算式です。
現金預金を持っているのであれば、そのおカネを使って借入金を返そうと思えば返せる状況にあります。
つまり。借入金があったとしても、現金預金がある分は「行って来い」だから、借入金は無いのといっしょ。と考えるわけです。
したがって、現金預金の金額が大きい場合には、債務償還年数は短くなります。
シンプルバージョンや運転資金控除バージョンで計算をすると10年以上だとしても、運転資金控除バージョンならば10年未満だということもあるでしょう。
債務償還年数を良くするために
さいごに。銀行融資の可否に影響する「債務償還年数」の指標を良くするにはどうしたらいいのか? についてお話をしておきます。
利益を増やすしかない
債務償還年数の指標を良くする方法は、とにかく「利益」を増やすことです。
算式を思い出していただければわかるとおり、「税引後利益」が増えれば、債務償還年数は短くなります。
ですから、債務償還年数を良くするには「利益」を増やす。
なにをあたりまえのことを… と思われるかもしれませんが、その「あたりまえ」が現実にはないがしろにされています。
たとえば、こんな言葉をよく耳にします ↓
” 税金を納めるくらいならば、経費を使って節税しよう ”
これを実行した結果、債務償還年数はいったいどうなるのでしょうか?
節税する=融資をあきらめる
税金を納めるのはイヤだ。だから経費を使って節税するとします。
経費が増えた分だけ利益が減って、たしかに収める税金は少なくなります。
ところが問題は、経費を増やしたことにより減ってしまった「利益」です。
利益が減ったら、債務償還年数はどうなるか。
「債務償還年数 = 借入金の残高 ÷(税引後利益+減価償却費)」なのですから、利益が減れば債務償還年数は長くなります。
結果として、債務償還年数が10年以上になってしまうかもしれません。10年以上にはならなくても、節税をする前と比べれば債務償還年数は長くなります。
債務償還年数が長くなれば、その分、銀行からは「もう貸さないほうがいいかなぁ」と見られやすくなります。
このように、節税と銀行融資とは「相反する」関係にあるのです。節税自体を否定はしませんが、利益を減らしすぎれば融資は遠のきます。
税金は納めたくない、でも融資は受けたい。これが矛盾した考えであることを覚えておきましょう。
銀行融資におすすめのメニュー
モロトメジョー税理士事務所では、「銀行融資のサポート」をするメニューをそろえています!
銀行融資の記事まとめページ
銀行融資入門セミナー
銀行融資・財務のコンサルティング
銀行融資の個別相談
まとめ
債務償還年数とは? 算式や考え方などについてお話をしてきました。
債務償還年数が10年以上になったからといって、即融資不可になるわけではありませんが。融資は「かなり難しくなる」のは間違いありません。それほど、債務償還年数は重要なのです。
銀行融資を考えるのであれば、重要指標である「債務償還年数」の算式・考え方を押さえておきましょう。