事業主貸ってなに?誰が誰におカネを貸したの?
なんて言ってしまうあなたへ。でも、無理もありません。フリーランス・個人事業者の帳簿づけ(経理)を悩ませる特殊な勘定科目が「事業主貸」と「事業主借」。
今回は、そんな「事業主貸」と「事業主借」が持つ意味についてお話しします。
事業主勘定ってなんなのよ?
フリーランス・個人事業主に特有の勘定科目として「事業主貸」「事業主借」というものがあります。2つあわせて、「事業主勘定」と言ったりします。
2つのサイフがすべてのはじまり
唐突ですが。帳簿をつけるにあたり、ひとつ確認です。フリーランス・個人事業者には「2つのサイフ」があります。次の2つです。
- 事業者のサイフ(事業用の現金、預金)
- 事業者以外のサイフ(プライベート用の現金、預金)
このうち、「経理の帳簿」につけるのは「事業者のサイフ」についてです。いっぽうの「事業者以外のサイフ」は「家計簿」で扱うべきものです。
さて。事業者のサイフについて、おカネの出入りを帳簿につけようとしたときに。ある問題が生じます。それは、
事業者のサイフから、プライベートの支払をしたらどうするの? という問題。
たとえば。事業用の預金から生活費を引き出しました、というケース。
事業主貸の意味
「事業者のサイフから、プライベートの支払をしたらどうするの問題」を解決するのが「事業主貸」です。
あなたはあなたにおカネを貸す
事業用の預金から、電話代を払えば「通信費」。電気代を払えば「水道光熱費」。いずれも経費です。
では、生活費を払ったら?経費にはなりません。生活費を払えば払うほど経費になるのなら、みんなジャンジャカ払います。残念。
生活費を支払うと、経費にはならずに「事業主貸」というモノになります。その意味合いを解釈してみると、
事業用のおカネを、事業主の「あなた」に貸したよ ということ。
オレがオレにカネを貸す?なんとも不思議なハナシですが。
「2人でひとり」の個人事業者
不思議なハナシの原因は。「サイフが2つ」あったように、「立場も2つ」あることです。2つの立場とは、
- 事業者としての立場(仕事)
- 事業者以外としての立場(プライベート)
ということで。フリーランス・個人事業者には「2つのサイフ」と「2つの立場」があります。ここで一気に整理します。
「事業主貸」を使うのは、「事業者のサイフ」から「事業者以外としての立場」でおカネを使うとき です。
さきほどの、事業用の預金(事業者のサイフ)から生活費(事業者以外としての立場)を支払うというのがまさにコレ。
事業主としての立場のあなたが、事業主以外としての立場のあなたにおカネを貸した。とみるのが事業主貸です。言うなれば「貸付金」です。
具体例を見てみよう
ほかにも「事業主貸」を使う例を見てみましょう。
- 事業用の現金(事業者のサイフ)で、マンガを買った(事業者以外としての立場)
- 事業用の現金(事業者のサイフ)で、国民年金保険料を払った(事業者以外としての立場)
- 事業用の預金(事業者のサイフ)で、自宅の家賃を支払った(事業者以外としての立場)
- 事業用の預金(事業者のサイフ)で、住民税を支払った(事業者以外としての立場) などなど
もうおわかりだと思いますが。フリーランス・個人事業者が、事業用のおカネをプライベートに使うこと自体は自由です。ノープロブレム。
ただし。プライベートの支払を帳簿につけるときには気を付けて。経費にはならずに「事業主貸」だから。そういうことです。
国民年金など社会保険料や住民税の支払いは「経費」ではありません。マンガや自宅家賃ほどのプライベート感はないかもしれませんが。
事業とは直接関係がない支払いである以上、「経費」でないとすれば「事業主貸」しかない。そう覚えておきましょう。
事業主借の意味
こんどは「事業主貸」の反対、「事業主借」。考え方は同じです。
あなたはあなたからおカネを借りる
オレがオレにカネを貸せたんだから。オレがオレからカネを借りることだってできるよね?はい、できます。それが「事業主借」です。意味合いを解釈すると、
事業用のおカネを、事業主の「あなた」から借りたよ ということ。
事業主借はあまりない
さっそく具体例です。といいながらも、「事業主貸」ほどの数はありません。実際にも、使うことが少ないのが「事業主借」です。
- 事業用の預金(事業者のサイフ)におカネがないので、プライベートの預金から振り替えた(事業者以外としての立場)
- 事業用の預金(事業者のサイフ)に、預金利息がついた(事業者以外としての立場)
- プライベート用の預金(事業者以外のサイフ)で、セミナー参加費(事業者としての立場)を支払った などなど
ということで。
「事業主借」を使うのは、「事業者のサイフ」に「事業者以外としての立場」からおカネを受け取ったとき です。
「事業主貸」が「経費」にはならなったように、「事業主借」は「収入」にはなりません。
事業主としての立場のあなたが、事業主以外としての立場のあなたからおカネを借りた。とみるのが事業主借です。言うなれば「借入金」です。
サラッと例に挙げてしまいましたが。プライベート用のおカネを事業者として使う場合には、やはり「事業主としての立場のあなたが、事業主以外としての立場のあなたからおカネを借りた」ということです。
預金利息は「収入」ではありません。正確には、「事業としての収入」ではありません。預金利息は事業をしていなくても、預金があれば得られるものなので。
事業とは直接関係がないおカネの受取りである以上、「収入」でないとすれば「事業主借」しかない。そう覚えておきましょう。
「貸したカネ返せ」の議論はない
「事業主貸」は「貸付金」、「事業主借」が「借入金」ならば。さぁ、貸したものは返してもらおうか。というハナシはありません。
貸したら貸しっぱなし、借りたら借りっぱなしです。もともと「ひとり」の中での貸し借りですからね。貸し借りにこだわる意味もありません。
フリーランス・個人事業者が、「事業者のサイフから、事業者以外の立場としておカネを出し入れする」のは自由です。
でも、貸しっぱなし借りっぱなしだと、帳簿上はどうなるの?ということは気になることでしょう。長くなりましたので、そこについては次の記事で書いています。
まとめ
事業主貸と事業主借について見てきました。これら事業主勘定を使うシーンについて、「2つのサイフ」と「2つの立場」で整理すると次の4パターンです。
サイフはどっち? | 立場はどっち? | 帳簿づけ | |
事業者 | 事業者 | → | 収入 or 経費 |
事業者 | 事業者以外 | → | 事業主貸 |
事業者以外 | 事業者 | → | 事業主借 |
事業者以外 | 事業者以外 | → | 家計簿 |
このように。事業主勘定は、「事業者」と「事業者以外」が混在したおカネの使い方をした場合に生じます。
おカネを使う際に、サイフはどっちかな?立場はどっちかな?と考えてみましょう。事業主勘定を使うべきか否かが見えてきます。
************
きょうの執筆後記
************
フリーランス・個人事業者の経理の鬼門、「事業主勘定」。どこにも書かれていない説明の仕方はないものか・・・と思案した結果の2つの○○でした。たぶん、書かれてないよね。