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『返済原資<返済額』になってしまったときの対応方法・順序

「返済原資<返済額」になってしまったときの対応方法・順序

「税引後利益 + 減価償却費」が返済原資。それが、銀行に対する年間返済額を下回るようではいけません。

そこで、「返済原資<返済額」になってしまったときの対応方法・順序についてお話をします。

目次

返済原資って計算したことある?

会社・事業における銀行融資について。

銀行への返済額に対して、返済原資が足りない… というのは避けるべき事態です。算式にするとこうなります ↓

避けるべき事態 算式その1

返済原資 < 返済額

返済原資よりも返済額のほうが大きい。その分、手元のおカネがどんどん減っていく。ついには返済ができなくなる。マズい。

この算式をさらに具体的にあらわすとこうなります ↓

避けるべき事態 算式その2

税引後利益 + 減価償却費 < 年間返済額

ずいぶんと「会計チック」なさまがわりに面食らっているかもしれませんが、それほど難しいハナシではありません。

上記算式中の左側「税引後利益 + 減価償却費」は、「返済原資」をあらわします。

税金を払ったあとの利益分は手元におカネが残る、と考えて「税引後利益」を返済原資とみる。これはだいじょうぶですよね。

ちなみに、税引後利益は「損益計算書」の一番下に掲載されています。

で、問題は減価償却費。減価償却費は「おカネの支出をともなわない費用(正確には、以前に支出済みの費用)」と説明をされるところです。

費用ではあるけれどおカネは出ていかないので、利益に足し戻してあげよう、という趣旨で税引後利益に「+」をしています。

なんじゃそりゃ? と思われるかもしれませんが。これ以上の解説は本記事の主テーマからはずれるため、減価償却費についての詳細は別記事に譲ります ↓

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ハナシを戻して、とにかく算式の左側「税引後利益 + 減価償却費」が返済原資。それが、銀行に対する「年間返済額」を下回るようだとマズい。そういうハナシをしています。

いっぽうで算式の右側「年間返済額」のほうは、融資ごとの「返済予定表」を見て、向こう1年分の「元金返済額」を抜き出せばわかりますね。

そのうえで、「税引後利益 + 減価償却費 < 年間返済額」になってしまったら。つまり、「返済原資 < 返済額」になってしまったら、いったいどうすればいいのか?

それが、この記事の本題です。「返済原資<返済額」になってしまったときの対応方法・順序は次のとおりです ↓

「返済原資<返済額」になってしまったときの対応方法・順序
  1. 余裕資金の返済分は含めない
  2. 利益を改善する
  3. 短期継続融資に切り替える
  4. 既存借入金を一本化する
  5. リスケジュールを検討する

それでは、このあと順番に見ていきましょう。

 

「返済原資<返済額」になってしまったときの対応方法・順序

《対応1》余裕資金の返済分は含めない

冒頭から「返済原資 < 返済額」はマズい。言い換えると、「税引後利益 + 減価償却費 < 年間返済額」はマズい。というハナシをしています。

なぜなら、返済原資(税引後利益 + 減価償却費)が返済額よりも少ない分だけ、手元のおカネがどんどん目減りしていくから。最終的にはおカネが無くなってしまうから。

ところが、ひとつ「例外」があります。それは「余裕資金」分の借入をしているときです。

いますぐ使う予定はないけれど、先の見えぬ将来に備えて手元におカネを置いておく(賢明です)。そのために銀行融資を利用する。

たとえば、銀行から 300万円を返済期間3年で融資を受けている。ただし、借りた 300万円には手をつけずに置いてある。つまり、余裕資金です。

このときの年間返済額 100万円(300万円÷3年)は、「税引後利益 + 減価償却費 < 年間返済額」の算式には含めません。算式右側の「年間返済額」に 100万円は含めない。

手元に置いてあるおカネ 300万円から返済できるからです。

余裕資金の借入については、その返済原資は借りたおカネそのものになります。税引後利益やら減価償却費やらは必要ありません。

この点、「税引後利益 + 減価償却費 < 年間返済額」の計算をするときには忘れないようにしましょう。忘れてしまうとムダに慌てることになります。

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《対応2》利益を改善する

さきほどの《対応1》を考慮したうえで、それでも「税引後利益 + 減価償却費 < 年間返済額」となると。いよいよマズいぞ、ということになります。

そこでまずやるべきことは、利益の改善です。

算式「税引後利益 + 減価償却費 < 年間返済額」の左側には、返済原資として税引後利益がありますから、その「利益」を増やそうというわけです。

言われなくてもわかっている、くらいに「あたりまえ」のハナシでもありますが。まずはここからはじめなければいけません。

利益改善への取り組みを、とても大ざっぱに分けると次の3つになります ↓

利益改善への取り組み
  • 売上を増やす
  • 原価率を下げる
  • 固定費を減らす

だから、言われなくてもわかってるって。そう言われそうなことではありますが、「王道」ゆえにあえて書いています。

また、王道であるにもかかわらず、「意外とわかっていない・できていない」こともあるので書いてみました。

そのあたり、もう少し詳しいことはこちらの記事に書いています ↓

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とにかく、「税引後利益 + 減価償却費 < 年間返済額」の状況にあっては、まずは利益の改善です。

とはいえ、「それでもほんとうにダメなんだ」というときにどうするかが、ここからのお話になります。

《対応3》短期継続融資に切り替える

ところで、「経常運転資金(正常運転資金などとも言います)」という言葉があります。

少々唐突ですが、このあとの話に必要なのでご容赦ねがいます。

で、経常運転資金とは。「売上債権 + たな卸資産 − 仕入債務」で計算される金額を言います。

上記算式中の「売上債権(売掛金・受取手形)」と「たな卸資産(在庫)」は、おカネが入金されるのを待っている状態のものです。

仕入債務(買掛金・支払手形)は、逆におカネを支払うのを待ってもらっている状態のものです。

結果、両者の差額である「経常運転資金」分のおカネが無いと、会社の資金繰りはもたない(経費の支払いなどができない)ことになります。

そこで、会社は経常運転資金分のおカネを用意するべく、銀行融資を受けるわけです(多くの場合、自己資金はなかなか貯まらないので)。

実は、ここで問題が起きています。

その問題とは、経常運転資金分のおカネを「毎月返済」の融資で借りている。これです。

さきほど言ったとおり、経常運転資金分のおカネが無いと会社の資金繰りはもちません。ゆえに、会社を続けている限り、常に経常運転資金分のおカネが必要になります。

にもかかわらず、「毎月返済」をしていたら?

いちど経常運転資金分のおカネを借りても、毎月の返済により減っていきますから、会社の資金繰りはどんどん厳しくなっていきます。

これではダメなので、「毎月返済」をしない融資に切り替える。誤解を恐れずに言えば「返済無しで借りっぱなし」の融資に切り替える、という対応が有効です。

結果として、「税引後利益 + 減価償却費 < 年間返済額」の右側にある「年間返済額」を減額することができますから、マズい状態を脱せる可能性があります。

このように、経常運転資金を対象にした「返済無しで借りっぱなし」の融資のことを「短期継続融資」と言います。

短期継続融資について、くわしくは別記事で解説をしますので確認をしておきましょう ↓

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《対応4》既存借入金を一本化する

たとえば、いま現在、銀行からの借入が3口あって、それらの年間返済額の合計が 600万円だとします ↓

既存借入金の一本化事例
  • 借入1… 年間返済額 300万円、残額 900万円(残り3年)
  • 借入2… 年間返済額 150万円、残額 600万円(残り4年)
  • 借入3… 年間返済額 150万円、残額 300万円(残り2年)

これらの借入残額を「1口」にまとめて、返済期間を引き伸ばすことができれば(たとえば10年)、年間返済額を減額することが可能です。こういうことです ↓

(900万円 + 600万円 + 300万円)÷ 10年 =180万円

こうして1口にまとめる、つまり、一本化することにより、当初の年間返済額 600万円が 180万円まで減額します。

結果として、「税引後利益 + 減価償却費 < 年間返済額」の右側にある「年間返済額」を減額することができますので、マズい状態を脱せる可能性があります。

このような一本化にはいくつかパターンがあり、ひとつの銀行のなかで複数口の借入をまとめてもらうとか、別の銀行の借入もいっしょにまとめてもらうことも可能です。

ただし、別の銀行の借入もいっしょに… となると「別の銀行」は融資をとられたことになりますから関係性が悪くなることを覚悟しなければいけません ↓

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なお、中小企業にとって利用度が大きい「信用保証協会付き融資」については、信用保証協会の「借り換え保証制度」というものがあります。

既存の「信用保証協会付き融資」を一本化して、最長10年まで返済期限を引き伸ばすことができる、という制度です。

複数口はなく、1口だけしかない場合でも利用できるので、「信用保証協会付き融資」を受けている会社は、ぜひ検討をしてみましょう。

《対応5》リスケジュールを検討する

ここまで4つの対応を見てきました。

それでもなお、「税引後利益 + 減価償却費 < 年間返済額」が解消できそうもない… という場合。

さいごの対応として、リスケジュール(いわゆる、リスケ)を検討することになります。

リスケジュールとは「当初の融資条件を変更する」ことを言い、おもに毎月の返済金額を減額することを指すものです。

これにより、「税引後利益 + 減価償却費 < 年間返済額」の右側にある「年間返済額」を減額する。できることなら年間返済額をゼロにして再起をはかります。

とはいえ、ただただ「返済ができません」と言うのでは銀行もリスケジュールに応じてはくれませんので、経営改善計画書の検討・作成などが必要になります。

その経営改善計画書をもって、各取引銀行への説明・交渉になりますから、リスケジュールが実現するまでには相応の時間がかかることを考慮しておかなければいけません。

( ※ 銀行の数が多く、交渉に時間がかかれば、数ヶ月から半年ていどかかってしまうこともあります)

つまり、リスケジュールを判断するタイミングが遅すぎると、間に合わない。リスケジュールの実行前に、手元のおカネが尽きてしまう、ということです。

もちろん、リスケジュールをしないに越したことはありませんが。いざというときのために、リスケジュールについて理解を深めておくことをおすすめします ↓

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まとめ

「返済原資<返済額」になってしまったときの対応方法・順序についてお話をしてきました。

まずは、「返済原資<返済額」になってはいないか、「税引後利益 + 減価償却費 < 年間返済額」の確認を怠らないようにしましょう。

そのうえで「返済原資<返済額」なのであれば、すぐに対応をすることが大切です。放置をして、たいへんなことになる前に対応することです。

「返済原資<返済額」になってしまったときの対応方法・順序
  1. 余裕資金の返済分は含めない
  2. 利益を改善する
  3. 短期継続融資に切り替える
  4. 既存借入金を一本化する
  5. リスケジュールを検討する
「返済原資<返済額」になってしまったときの対応方法・順序

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