銀行融資の受けやすさをはかる指標として「銀行格付」があります。
その銀行格付を、社長はどこまで厳密に考えるべきなのか? 129点満点と言われる定量評価に、どこまで意味があるのか? についてのお話です。
「銀行格付=129点満点」というイメージ。
会社が銀行から融資を受けるにあたって、その受けやすさをはかる指標として「格付」があります。格付とは、平たく言うと、銀行が「各融資先に対する融資姿勢(どれだけ融資をするか)」を決めるためのしくみです。
銀行によって違いがありますが、おおむね10段階ていどに区分をされます。イメージとしては、「1格」がいちばん良い会社、次が「2格」「3格」と続いて、さいごは「10格」みたいな。
では、なにをもって「良い会社」とするのか? そこには当然、「基準」があります。この点で、よく見聞きするのが「定量評価」です。言い換えると、決算書の「数字」を基準にする評価。
具体的には、次のような項目によって評価します↓
- 自己資本比率
- ギアリング比率
- 固定長期適合率
- 流動比率
- 売上高経常利益率
- 総資本経常利益率
- 収益フロー
- 経常利益増加率
- 自己資本額
- 売上高
- 債務償還年数
- インタレスト・カバレッジ・レシオ
- キャッシュフロー額
これだけ見ていると、「うへぇ…」と辟易したくもなりますが。これらの項目には、各銀行がおおむね似たような配点をしていて、129点満点のうち、たくさん得点できた会社が「良い会社」です。
というわけで、自社の決算書をもとに「129点中、何点か計算してみましょう」といった話を見聞きしたことがあるかもしれません。そして、「よし、計算してみよう」と思われるかもしれません。
たしかに、それも悪くはありません。悪くはないのですが、そこまで厳密に考えるべきことなのか?129点中何点とれたかにどこまで意味があるのか? は、考えておいたほうがいいでしょう。
つまり、そこまで厳密に考える必要はなく、点数にはそれほど意味がないかもしれない。そういうことです。このあと、次のようなお話をしていきます。
- 定量評価なら3指標でじゅうぶん
- 格付には3段階もある
- これからは定性評価も考える
それでは、順番にみていきましょう。
3項目でじゅうぶん
冒頭では、銀行格付の基準になる「たくさんの項目」を挙げました。数えていた人は少ないものと思いますが、なんと、ぜんぶで13もの項目がありました。
それらをひとつひとつ見て、どうしたら良くすることができるだろうか? と考える。それも、悪くはありません。悪くはないんですが、もっとシンプルに考えることができます。それがこちらです↓
- 税引後利益+減価償却費(大きいほど良い)
- 借入金残高 ÷(税引後利益 + 減価償却費)< 10
- 資産の総額 > 負債の総額
これらのくわしい説明は別記事にゆずるとして。冒頭の13項目は、おおむね、上記の3項目に集約できます。つまり、これら3項目の値を良くすることができれば、13項目の値も良くなるはずだ、ということです。
さらに言えば、実は、たったひとつに集約することもできます。それは、「とにかく利益を出すこと」です。これで間違いなく、13項目すべてが良くなります。
いやいや、利益を出すだなんて。そんなあたりまえのことをいまさら、と思われたかもしれませんが。そのあたりまえを、なかなかできないのが、わたしたちです。
どういうことかと言うと。ほとんどすべての社長が、はじめは「利益を出したい・増やしたい!」と考えて経営しているはずです。ところが、いざほんとうに利益が出ると、「利益を減らしたい…」と考えるようになります。
なぜなのか? 税金があるからです。利益が増えると、税金も増えるからです。こうして、けして少なくはない社長が、あえて費用を増やして利益を減らします。
すると、税金は減りますが、格付は悪くなるので、融資は受けにくくなります。
ちなみに、減った税金の額よりも、受けられなくなる融資額のほうがずっと大きいことは理解しておきましょう。また、減った税金の額よりも、減ったおカネの額が大きいことも理解しておきましょう。そのあたり、くわしくはこちらの記事をどうぞ↓
とにもかくにも、13項目それぞれについて、ああだこうだと厳密に考えるよりも。まずは、出せる利益を惜しまずに出すことです。もし、厳密に考えたいというのであれば、それからでも遅くはありません。
格付には3段階もある
冒頭では、銀行の格付として「129点満点のうち、どれだけ得点できたか」という話をしました。けれども、実は、129点満点という基準は、格付の基準の「一部」に過ぎません。
銀行の格付は、3段階に分かれています。イメージとしては、次のとおりです↓
- 1次評価 … 定量評価(129点満点のうち何点か)
- 2次評価 … 定性評価(決算書の数字以外の評価)
- 3次評価 … 実態評価(修正後の決算書評価、社長個人資産の評価)
上記のとおり、「129点」のハナシは、格付を決める工程のうち、1次評価に過ぎません。そのあとに、2次評価・3次評価が控えています。では、その2次評価・3次評価とはどのようなものなのか?
さっと説明をしておくと。まず、2次評価は、決算書の数字以外の評価、いわゆる「定性評価」です。具体的には、経営理念や経営計画、業界動向、市場シェア、従業員のようす、など。
そこに、71点の配点があります。これと、さきほどの129点をあわせて 200点満点というのが、格付点数の「全体像」です。
なお、決算書の数字と違って、銀行員それぞれの「主観」が入りますから、どれくらい得点できているのかを推測するのは困難な部分でもあります。
続いて、3次評価はどうかと言うと。会社がつくった決算書を、銀行はあらためて修正したうえで評価をしています。中小企業の決算書は、大企業ほど信頼のおけるものではない。多かれ少なかれ、間違いや粉飾がある。というのが、銀行の見方です。
だとすれば、1次評価での得点を真に受けることはできない、アテにはできない。だから、銀行は決算書を、銀行の見方で修正をしたうえで、あらためて評価をするわけです。
これについても、個々の銀行が考えることですから、どのような修正をされたのか、こちらが厳密に知ることはできない部分になります。
ちなみに、3次評価では、社長個人の資産があれば、それもまた評価の対象になるところです。そういう意味では、社長個人の資産は、銀行に対して積極的に開示すべきだとわかります。
かくして、格付は3段階もあり、129点のハナシだけを見ていたのでは、最終的な格付を知ることはできないことがわかりました。2次評価・3次評価には、銀行外部からは推測困難なところもある…
冒頭でも述べたとおり、結論として、銀行格付をそこまで厳密に考える必要はなく、点数にはそれほどの意味がないかもしれない、ということになります。
これからは定性評価も考える
とはいえ、格付を無視してもいいのか? と言えば、そんなことはなく。格付を上げるためになにをしたらよいか? を考えて、実行していくのは大切なことです。
というわけで、ここまでの話もふまえて、格付を上げるためになにをすべきか? について確認していきましょう。それはずばり、定性評価を上げることです。200点中、71点の部分ですね。
この定性評価については、よくこんなことが言われています。それは、「定性評価のウエイトは低い」ということです。
もう少し、言うと。配点としては71点あるものの、実際にはそこまでのウエイトではなく。都市銀行では、全体の10%ていど、地方銀行で20%ていど、信用金庫・信用組合で30%ていどのウエイトだと言われています。しかも、それらは「多くても」ということであり、通常はもっと低いウエイトだと。
なお、大きな銀行ほど、定性評価ではなく、数字(定量評価)のほうを重視していることは覚えておくとよいでしょう。大きな銀行ほど、数字にシビアなのです。
また、定性評価には、銀行員の「目利き」が必要であり、いまの銀行員は「そもそも目利きができない」という話もあります。ゆえに、定性評価のウエイトは低く、定性評価を上げる努力に意味はない、との話につながるところです。
が、それは「これまで」のことであって、「これから」は違います。いま銀行は、「伴走支援型融資」や「事業性評価融資」といった融資を、金融庁から要求されている状況です。
かんたんに言えば、「定性評価にチカラを入れなさいよ(それができなければ、銀行として生き残ることはできませんよ)」ということになります。よって、銀行は定性評価にチカラを入れざるをえない状況にあるわけです。
では、その定性評価を上げるために、社長はなにをすべきか。わたしのおすすめは、2つ。
ひとつは、ローカルベンチマークを作成して、銀行に提示すること。それをもとに、定性評価項目について、銀行に情報提供をすることです。くわしくは、こちらの記事をどうぞ↓
もうひとつは、経営計画書をつくること。これからは、「経営計画書もつくっていない会社は、支援しない・支援できない」という、銀行の線引きが考えられます。
銀行融資のおける経営計画書の位置づけを、考え直す必要があるでしょう。そのあたりはこちらの記事を参考にどうぞ↓
ちなみに、定量評価については、前述したとおり、とにかく利益を出すこと。出せる利益を惜しまずに出すことです。
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まとめ
銀行融資の受けやすさをはかる指標として「銀行格付」があります。
その銀行格付を、社長はどこまで厳密に考えるべきなのか? 129点満点と言われる定量評価に、どこまで意味があるのか? について、理解をしておくようにしましょう。
結論として、定量評価は「とにかく利益を出すこと」であり、これからは定性評価もだいじだ、ということになります。