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クラウド会計導入が進まない税理士事務所のアブナイ会話

危ない状況

世の中に広がる「クラウド」の波は、会計の世界でもその勢いを増しています。
大規模税理士事務所が顧問先に一斉導入、の報も聴こえます。
その一方で、導入に足踏みをする税理士事務所の姿も・・・

目次

クラウド会計を阻む3つの会話

いくらクラウドの波が強くても、すべての事業者の会計にとって、クラウド会計が「最適解」であるかどうかは別の話です。

現時点では、従来のインストール型会計ソフトにも勝る点はあります。
クラウド型もインストール型も一長一短なのです。
だからこそ、会計の「選択肢のひとつ」として、税理士事務所がクラウド会計を手札に加えておくことは必要なことといえます。

ところが、クラウド会計の導入に躍起になる所長税理士の思いとは裏腹に、うまく導入が進まない税理士事務所の姿も見えてきました。
笛吹けど踊らず。
そんな税理士事務所で聞こえる、次の3つの会話について考えてみます。

1.お客さんに断られました
2.いまのままでもいい(かえってタイヘン)
3.なにをやればいいかわかりません

「お客さんに断られました」

税理士事務所の職員が顧問先にクラウド会計の導入を説明して断られるケース。
顧問先からはいろいろな言葉を言われます。
「クラウドは信用できない」「利用料が高い」
「税理士事務所がラクになるだけ(だったら、顧問料下げて)」などなど。

それでも、断られてしまう本質的な理由はひとつ。
顧問先にクラウド会計の「効果」を十分に伝えられていないことです。

クラウド会計のいちばんの効果は、「経理の価値転換」にあります。
これまでの経理の多くは、「いま現在」よりもだいぶ遅れて試算表をつくることでした。
先月末の試算表が半月~1月遅れで作成される、というようなことです。

クラウド会計による経理では、クラウドでの「収集データ」を最大限に活用します。
バンキング、クレジットカードなどの取引データを会計に自動取込、試算表作成のスピードを速める、これはひとつの効果です。
極端に言えば、ひと月前の試算表と今日の試算表とでは、見る人にとっての価値は全く異なるものになるでしょう。
「ひと月前の試算表をみせられてもねぇ」は経営者の本音です。

そして、ほんとうの効果はその先にあります。

会計の自動化をより加速させようとすると経理にかかわる周辺業務(いわゆるバックオフィス)全体に見直しがかかります。
たとえば、タブレットレジやタイムレコーダー。
いままで単独で機能していたものを、クラウド経由で会計に自動取込できるしくみに変えていく。
すると、仕事の在り方や働き方にまで変化が及びます。
いままで閉店後にやっていた売上伝票の整理が不要になる、とか。

会計にとどまらず、経理を中心に仕事の価値転換をはかる、そこにこそクラウド会計のほんとうの効果がある。
というお話をさておいて「クラウドで入力がラクになるんです」、みたいな切り口では断られるのもむべなるかな、といったところでしょう。

「いまのままでもいい(かえってタイヘン)」

いまの仕事に慣れているので変えるのは手間だし面倒だ、というような趣旨の会話です。

仕事における「慣れる」という言葉には、好意的な一面があります。
仕事に慣れる→仕事ができるようになる、そんな感じです。
たしかに、仕事に慣れることは良いことです。
ところがその一面を評価できるのは、「仕事の手順」というオペレーションに限られます。

慣れてはいけないもう一面として「マインド」があるからです。
マインド、つまり「気持ち」までもが慣れてしまえば、必要な変化の機会を失います。

私自身も、慣れた仕事を変えることには正直面倒を感じます。
ですがそのときは、「いまのまま居ることの怖さ」を考えるようにしています。
クラウド会計に関して言うのであれば、このままで居たら、お客さまに「経理の価値」を出すことが難しくなるな、
結果として、自分が仕事を続けること、税理士として生き残ることは難しくなるな、と。

とはいえ、「怖さを考える」などと言いましたが、税理士事務所の社員という立場を考えると容易なことではないと想像します。
社員という立場で、ほんとうにその怖さを認識できるのか・・・

私にも独立開業前に、18年間の勤め人の経験があります。
正直に言えば、認識できていませんでした。
でもそれは、独立した今だからこそわかることでもあります。
勤め人でありながらほんとうの怖さを認識する、それは個人の資質ともいえます。

ほんとうの怖さまで認識できないまでも、「気持ちの慣れ」に歯止めをかけられるか。
個人個人の資質の問題でありながらも、個人の資質に組織がどう関わるかという組織風土に及ぶ、根が深い「会話」です。

「なにをやればいいかわかりません」

クラウド会計について、税理士事務所内部的な効果として、「監査業務が速く済むようになる」ということが挙げられています。

上述の通りで、会計の自動化が進めば税理士事務所の手間が減る部分があります。
顧問先での監査業務、早く終わってしまったらその時間なにをすればよいか。
たとえば、3時間の監査業務で3万円いただいていたお客さま。
クラウド会計導入で、それが1時間で終わってしまったらどうしよう?
いままでどおり、3万円いただくにはなにをすればよいだろう?
クラウド会計導入後におとずれるであろう「不安」に対する会話です。

税理士事務所の存在意義が「試算表作成」になっているとこうなります。
言うまでもなく、「ニーズがわかっていない」の典型です。
もっとも「自分の仕事は試算表作成です、えっへん」、なんて実際に言うような会計人はあまりいません(いても困りますが)。

ほんとうは「もっとお客さまのために」という気持ちはあるのに、どうしていいか「わからない」ということがあります。

もちろん、本人も考えるべきことではありますが、「組織」としてもいっしょに考え、答えをだすべきところです。
わたしたちの存在意義とはなにか、意義を果たすために、空いた時間で具体的になにをするのか。
上司の「自分で考えろよっ!」の一言で片づけるのでは部下は報われません。

クラウド会計という「手段」を取るより先に、まずは「目的」と「行動」まで落とし込んでおく。
このあたりを面倒がって見切り発車していると、出てくる「会話」です。

会話を抑え込んでクラウド会計を導入することはできるかもしれません。
ですがその場合には「ほんとうになにもできず」、顧問先からのクレーム、値下げ要求、解約までを覚悟しておく必要があるでしょう。

まとめ

クラウド会計導入が進まない税理士事務所のアブナイ会話、として3つ、お話をしました。

特定の税理士事務所やその社員の話をしているわけではなく、私自身の経験や見聞をもとにした憶測を含むものです。
「これってウチ(自分)のこと?」ともし思われてもそれは違います(笑)

クラウド会計の話をしてはいましたが、総合的な「組織」の傾向として、
経営サイドから見ると「あいつが~」、
社員サイドから見ると「組織が~」という言葉を耳にします。

もとより、
言葉にすべきは「これからどうするか」です。

私自身も長く組織に身を置いていましたので。
自分への教訓を込めて、不遜ながらもあえて提唱します。

「あいつが」「組織が」というお客さま不在の議論ではなく、お客さまを含めた「社会とその未来」の話をしましょう!

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  きょうの執筆後記
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昨日は終日、外での業務。夜遅くになってからランニング。
4月からランニングを開始し、はじめて8kmを走りました。
当初は3km程度でバテバテ・・・
いまはスピードこそ当初とあまりかわりなく遅いものの、
激しい息切れはほとんどせずに走れます。継続とはチカラ!
その効果?なのかふくらはぎが妙に発達したような・・・
細身のスラックスに違和感を感じます。なんか困ります。

 

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