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粉飾には必ず傾向がある【決算書による与信管理のススメ】

粉飾には必ず傾向がある【決算書による与信管理のススメ】

会社にとって、だいじなことのひとつ「与信管理」。その方法として、取引先の決算書から粉飾をあぶりだそう、というお話をしていきます。

目次

ぜったいに見抜ける! とまでは言わないけれど。

いきなりですが、社長に質問です。取引先の「与信管理」はしていますか?

ちなみに、与信管理とは。その相手と取引をしても問題がないか、どれくらいのボリューム(金額)まで取引をしてもよさそうか、といった検討をすることです。

取引をはじめる段階ではもちろん、その後も定期的に。というのが、与信管理になります。その目的は、言うまでもなく、「回収不能を避けるため」です。

せっかく商品やサービスを提供できても、その代金を回収できないのであれば意味がありません。というか、売り上げるまでにコストがかかるのですから、「大損」です。

そうならないように、与信管理が大切だと言えます。コロナを経て、経営・財務が厳しい会社も増えていますから、取引先の状況にはいっそう気をつけたほうがよいでしょう。

そんな与信管理の方法はいろいろありますが。今回は、取引先の「決算書」を使った与信管理について。それも、決算書の「粉飾(利益の水増し)」から、危険な取引先をあぶりだそう、というお話になります。

粉飾は、業績が悪いことのあらわれですから、取引の中止や、取引量の制限を考えるべきでしょう。この点で、取引先に対して決算書の提出を要求できればよいのですが。チカラ関係などから、要求できないことも少なくありません。

そんなときには、信用調査会社の帝国データバンクが提供している、「調査報告書」を利用するのがおすすめです。調査報告書には、決算書情報も含まれます。

取得するのに1.5〜2万円くらいかかりますが、「回収不能」になる金額を考えれば、かけるべき価値がある金額だとも言えるでしょう。とはいえ、決算書を見て、粉飾などわかるのか?

ぜったいに見抜ける、とまでは言いませんが。粉飾には、一定の「傾向」があらわれるものです。その傾向のつかみ方を理解しておきましょう。おもに、次のような傾向があります↓

粉飾にあらわれる、おもな傾向
  • 役員報酬や交際費が減る
  • 売掛金や在庫が増える
  • 税引前利益率が低くなる
  • 大きな赤字がある
  • 営業キャッシュフローのマイナスが続く

それではこのあと、順番に見ていきましょう。

粉飾にあらわれる、おもな傾向

役員報酬や交際費が減る

決算書のなかにある「費用」の一項目に、「役員報酬」があります。会社から、社長をはじめとした役員に対する報酬(≒給与)です。その役員報酬の金額を決めるのは、株主になります。

この点で、中小企業においては、「株主=社長」であることがほとんどです(帝国データバンクの調査報告書では、株主構成を確認できます)。つまり、役員報酬は社長が自由に決められる、ということになります。

すると、なにが起きるのか? 業績が良い(あるいは、良くなる見込みの)ときには、役員報酬の金額は増える傾向にあり、業績が悪い(あるいは、悪くなる見込みの)ときには、逆に減る傾向があります。

したがって、業績が悪く、粉飾をするような会社では、当然に役員報酬を減らしているわけです。もちろん、役員報酬を減らすこと自体は粉飾ではありませんが。粉飾の前段階、あるいは粉飾と同時に、役員報酬が減る傾向にあると言ってよいでしょう。

その傾向を、複数年の決算書を並べて確認します。複数年の決算書を見るというのは、このあとの話にもかかわるところです。

粉飾は、積み重なることで「歪み」が大きくなります。1年分の決算書だけを見ていると、歪みには気づきにくいものですが、複数年並べてみると気づくやすくなるものです。

前述した帝国データバンクの「調査報告書」だと、基本的に、3期分の決算書情報が掲載されます。複数年ということでいえば、3期分はほしいところです。

なお、役員報酬とあわせて「減っているかどうか」を確認するポイントとして、「交際費」が挙げられます。交際費もまた、業績に連動しやすい項目だからです。

業績が良い会社では、交際費が増える。逆に、業績が悪い会社では、交際費が減る傾向にあります。複数年の交際費を比較してみて、金額の傾向を確認してみましょう。

売掛金や在庫が増える

おだやかなハナシではありませんが、粉飾の手段といえば、いまもむかしも「架空売上」と「架空在庫」の計上が王道です。架空売上と架空在庫なくして、粉飾なし。

架空売上の計上によって、決算書では「売掛金」が増えます。架空在庫の計上によって、決算書では「棚卸資産」が増えます。なので、その2つの項目に注目をしてみましょう。

ただし、金額だけを見ていても、あまりよくはわかりません。なぜなら、売上が増えれば、売掛金も棚卸資産も増えるものですし、売上が減れば、売掛金も棚卸資産も減るものだからです。

そこで注目すべきは、売上に対する売掛金の割合、売上に対する棚卸資産の割合になります。売上の増減よりも、売掛金や棚卸資産の増減のほうが大きくなってはいないか?「売掛金回転期間」や「棚卸資産回転期間」と呼ばれる指標です。

算式であらわすと↓

  • 売掛金回転期間 = 売掛金 ÷(売上高÷12ヶ月)
  • 棚卸資産回転期間 = 棚卸資産 ÷(売上高÷12ヶ月)

売上高を12ヶ月で割り算しているのは、「売掛金」や「棚卸資産」が、「売上の何ヶ月分あるか?」という単位にして、指標の意味を考えやすくするためです。

売掛金回転期間と棚卸資産回転期間も、やはり複数年の決算書で計算をします。そのうえで、比較をしてみて、回転期間が極端に上がっているようであれば、粉飾の可能性は大です。

なお、商売によっては棚卸資産を持たない会社もあるでしょう。けれども、棚卸資産を持つような会社では、架空売上よりも架空在庫を使った粉飾が増えるものです。

なぜなら、架空売上となると消費税の納税額が増えるから。というわけで、棚卸資産を持つような取引先については、棚卸資産回転期間により注目をしてみましょう。

税引前利益率が低くなる

粉飾をするデメリットのひとつに、法人税の納税額が増えることが挙げられます。粉飾とは、利益を水増しする行為です。法人税は、利益に課される税金ですから、粉飾をすると納税額が増えます。

すると、どんな傾向があらわれるか? ちょっとだけ黒字にしよう、という傾向です。赤字はマズい(銀行から融資が受けられなくなるし)。でも、納税はイヤ。だから、ちょっとだけ黒字です。

では、粉飾の目安は? というと。売上高に対して、「税引前当期純利益の割合が1%以下」です。年間売上高が1億円の会社であれば、100万円が1%にあたります。

法人税率を 30%とすると、納税額は 30万円です。これくらいならなんとか… といったところでしょう。できるだけ黒字にしたいのはヤマヤマですが、30%の税金負担は大きなものです。

この点で、税引前利益率が1%を割り込んで、0.5%と0.3%と下がってくるようだと、粉飾の可能性はいっそう大きくなります。粉飾は納税とのせめぎあいでもありますから、税引前当期純利益の傾向にも注目をしておきましょう。

大きな赤字がある

いましがた、粉飾は納税とのせめぎあいだと言いました。ところが、納税のことを気にすることなく、粉飾をできるケースがあります。それは、「過去に大きな赤字がある」ケースです。

法人税の計算では、赤字があると、その赤字を翌年以降に繰り越せることになっています。たとえば、1,000万円の赤字が出た場合。翌年、1,100万円の利益であれば、繰り越した赤字と相殺をして、100万円だけに税金がかかる、というしくみです。

翌年の利益が 300万円であれば、相殺しきれなかった 700万円は、さらに翌年に繰り越せます。赤字が出てから、最大10年まで繰り越せる。これを専門用語で、「繰越欠損金」などと呼びます。

というわけで、過去に大きな赤字があると、その後はしばらく、納税の心配をする必要がありません。ある意味、思い切った粉飾が可能です。

この状況では、前述の「税金前利益率1%以下」という目安は、役に立たないことになります。代わりに、過去に大きな赤字がないかをチェックしましょう。

なお、複数年の決算書を見て、過去の赤字をチェックする方法のほかにもうひとつ。決算書の「税引前当期純利益」の下にある「法人税・住民税及び事業税額」も、赤字のチェックに役立ちます。

法人税率は、おおむね 30〜35%くらいです。したがって、「税引前当期純利益 × 30〜35%」よりも、「法人税・住民税及び事業税額」の金額がだいぶ少ないようであれば、「過去の大きな赤字(繰越欠損金)」がある可能性が大だ、と考えることができます(利益を繰越欠損金と相殺しているから税金が少ないのでは? という考え方)。

というわけで、ぜひ、税金(法人税・住民税及び事業税額)の金額にも注目をしてみましょう。

営業キャッシュフローのマイナスが続く

会計の世界における有名な言葉に、「利益はウソをつく、キャッシュ(現金預金)はウソをつかない」というものがあります。

お話をしてきたとおり、利益は「粉飾」によってウソをつくことが可能です。ところが、キャッシュとなるとそうはいきません。預金残高を改ざんすることは困難だから、ですね。

そこで、「キャッシュの動きから、会社の好不調を判断しよう」という見方が生まれます。そのための具体的なツールが、第三の財務諸表と言われる「キャッシュフロー計算書」です。

中小企業においては「作成は任意」ではありますが、その有用性から、「自社でもつくっている」という会社もあるでしょう。ぜひとも、作成をおすすめします。

それはそれとして、取引先のキャッシュフロー計算書はどうするのか? ノウハウを知る者であれば、決算書からキャッシュフロー計算書をつくることは可能です。

が、ちょっとムリ… というのであれば、やはり、帝国データバンクの「調査報告書」を利用するのもよいでしょう。調査報告書のなかには、「推定キャッシュフロー計算書」という情報が含まれています。

その推定キャッシュフロー計算書のなかから、「営業CF(キャッシュフロー)」という項目に注目してみましょう。その金額と、決算書の「営業利益」とを見比べます。1年分だけを見るのではなく、ここでも、複数年を並べてみるのが効果的です。

そのうえで、注意すべきは、「営業利益は黒字が続いているのに、営業CFはマイナスの傾向があるケース」になります。

営業CFとは、端的に言うと、「会社の本業における現金預金の増減金額」です。本来、もうかっていればおカネも増えるだろうという考え方からすれば、営業利益が増えれば、営業CFもプラスでしかるべきでしょう。

もちろん、短期的には営業CFがマイナスということもありえます(利益とおカネの動きは一致しないから)。それでも、複数年で見たとき・中長期で見たときには、利益とキャッシュフローの動きはおおむね一致するものです。そのあたりを確認するようにしてみましょう。

まとめ

会社にとって、だいじなことのひとつ「与信管理」。その方法として、取引先の決算書から粉飾をあぶりだそう、というお話をしてきました。

粉飾には、一定の傾向があらわれます。その傾向に気がつけるようになりましょう。

粉飾にあらわれる、おもな傾向
  • 役員報酬や交際費が減る
  • 売掛金や在庫が増える
  • 税引前利益率が低くなる
  • 大きな赤字がある
  • 営業キャッシュフローのマイナスが続く
粉飾には必ず傾向がある【決算書による与信管理のススメ】

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