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事業承継と経営者保証、そしてEBITDA有利子負債倍率

事業承継と経営者保証、そしてEBITDA有利子負債倍率

事業承継の遅れが問題になっています。その要因の1つが「経営者保証」です。既存の銀行借入にともなう社長の連帯保証が後継社長の重荷となっています。ではどうすれば…?というお話です。

目次

事業承継をさまたげる経営者保証

日本では、事業承継の遅れが問題になっているのはご存知のことでしょう。社長の高齢化、後継者不足、M&Aの文化がなじまないなど。とくに中小企業では、顕著になっています。

加えて、事業承継をさまたげる要因が「経営者保証」です。経営者保証とは、会社が銀行から借入をするにあたり、社長個人が連帯保証をすることをいいます。

この点、現社長が経営者保証をしている場合、事業承継にともない、後継社長が経営者保証もまた引き継ぐことになると、後継社長としては「重荷(=イヤだ)」になるのはわかるでしょう。

以前に比べれば、経営者保証なしの融資が増えているとはいえ、銀行としても「誰彼かまわず経営者保証なし」というわけにはいきません。端的にいえば、経営者保証をなしにできるのは、優良な会社に限られる、ということです。

では、優良な会社とは、具体的にどういった会社なのか?

信用保証協会の「事業承継特別保証」の要件が参考になります。本保証は、事業承継時に、既存の経営者保証ありの借入を、経営者保証なしの借入に借り換えできる制度です。

これを利用できれば、後継社長の重荷を1つ減らすことができます。というわけで、本保証におけるおもな要件について、このあと確認をしていきましょう。

事業承継特別保証を利用するための要件とは?

EBITDA有利子負債倍率≦15

いきなりの専門用語にびっくりしたかもしれません。EBITDA有利子負債倍率とは何なのか。算式であらわすと次のとおりです↓

(借入金ー現預金)÷(営業利益+減価償却費)

このうち「分子(借入金ー現預金)」については、正味の借入金(有利子負債)をあらわしています。現預金があれば、その分の借入はいつでも返済できるため、借入金からマイナスしているわけです。

いっぽうの「分母(営業利益+減価償却費)」は、返済原資です。減価償却費は費用であり、営業利益を計算する過程でマイナスされているものの、現預金の支出をともなう費用ではないため(減価償却の対象となる資産を買ったときに支出は済んでいる)、足し戻していることになります。

というように、減価償却前の営業利益のことを「EBITDA(イービットディーエー)」と呼ぶのです。

以上から、EBITDA有利子負債倍率とは、「有利子負債は、返済原資の何倍か?」をあらわす指標だとわかります。そのうえで、事業承継特別保証では「15倍以内」を求めているわけです。

ちなみに、以前は10倍以内だったので、要件としては緩和されたことになります。よって、事業承継で経営者保証を外したければ、EBITDA有利子負債倍率が15倍位内を目指しましょう。要は、営業利益を増やしましょう、ということです。

ここであえて、1つ助言を申し上げるのであれば、「税金を減らすために費用を増やしたりしない」ことです。目先の税金を嫌って、利益を減らそうとする社長がいます。そういうことをしていると、EBITDA有利子負債倍率には悪影響であることを理解しておきましょう。

資産超過(資産>負債)

事業承継特別保証の要件は、EBITDA有利子負債倍率のほかにもいろいろあります。続いては、「資産超過」です。文字どおり、資産が負債を超過する状態をいいます。

逆に、負債が資産を超過する「債務超過」では、事業承継特別保証は利用できないということです。まぁ、当然といえば当然でしょう。債務超過は、とても危険な状態をあらわしていますから、そんな会社にまで、経営者保証を外すことはできません。

この点、社長は「どうすると債務超過になってしまうのか」を押さえておきましょう。前述した「税金を減らすために費用を増やす」のもまた、債務超過の原因になります。

費用を増やせば、税金が減る以上に手元のおカネは減るからです。おカネは資産ですから、「資産<負債」に近づくことになります。より多くのおカネを手元に残したいのであれば、基本、おとなしく税金を払うことであり、出せる利益は惜しまずに出すことです。

ところで、借入を増やすと債務超過に近づくと考える社長がいます。間違いです。借入すること自体で、債務超過に近づくことはありません。債務超過の原因は、ほかにあります。

そのあたり、別の記事にまとめました。借入を過度に嫌うことがないように、確認しておくことをおすすめします。必要な借入まで毛嫌いしていると、資金繰りをムダに悪くするのが問題です↓

法人・個人の分離がなされている

何のこっちゃ?と、おもわれるかもしれませんが。法人・個人の分離がなされていない典型例が、会社から社長への貸付金です。

これがあると、会社のおカネが社長個人に流れているため、会社のサイフと個人のサイフがごっちゃになっていると見られてしまいます。そういう会社は危ないぞ、というのが銀行や信用保証協会の見方です。

よって、決算書に「社長への貸付金」がある会社は、早急に解決をはかりましょう。経営者保証以前に、融資を受けること自体が難しくなってしまいます。

逆に、社長からの借入金もまた、法人・個人の分離がなされていない一例です。ほかにも、社長の役員報酬が高すぎる、交際費が多すぎるなども問題になることがあるため、気をつける必要があります。

せっかく業績がよくて、EBITDA有利子負債倍率や資産超過を満たしていても、法人・個人の分離が満たせていない会社はあるものです。非常にもったいないケースだといえます。

業績がよいだけに、社長自身が問題に気づいていないこともあるため、なかなかにやっかいなところです。法人・個人の分離には時間がかかることもあるので、早く問題に気づくことも大切になります。

まとめ

事業承継の遅れが問題になっています。その要因の1つが「経営者保証」です。既存の銀行借入にともなう社長の連帯保証が後継社長の重荷となっています。ではどうすれば…?

ということで、信用保証協会の事業承継特別保証についてお話をしました。本保証を利用するためには、一定の要件を満たす必要があります。

まだ承継は先だという会社であっても、将来に備えて、いまのうちから要件クリアを目指すようにしましょう。いざ承継となってからでは、すぐに要件をクリアすることは難しいものです。

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